平原綾香、異色の15周年アルバム
ジャンルを超える歌

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「いかに慣れないことをやってきたか」

   今年になって思いがけない場所で彼女の歌の説得力を見せつけられることがあった。

   3月に武道館で行われた中島みゆきの曲ばかりを歌うコンサート「歌縁」もその一つだ。平原綾香はそこで「銀の龍の背に乗って」「孤独の肖像1st」「アリア~Air~」という3曲を歌った。時代もスタイルも違う三曲の渾身の歌唱は群を抜いていた。特に「アリア~Air~」は、2016年の平原綾香のアルバム「LOVE」のために中島みゆきが書き下ろしたものだ。彼女が自身のアルバムでセルフカバーした時も「平原さんみたいには歌えませんから」と言っていた。

   やはり3月に放送された日本テレビの番組「地球劇場」でアリスの「さらば青春の時」を歌う姿をたまたま見た。アリスの3人を前にした熱唱に彼らも言葉を失っていた。テレビの歌番組での一曲で聞き手を沈黙させてしまう。それはすごみすらあった。

   音楽に対して無責任になってはいけない――。

   それが彼女の歌の原動力なのではないかと思う。

   歌にエゴがない。うまく歌おうとか、自分のものにしてやろうという野心が感じられない。クラシックを歌う時にはその作曲家の生涯を調べて、その人とどこまで対話出来るかということから始めるというのもその一例だろう。「ラブ・ネバー・ダイ」も「メリー・ポピンズ」も最初は「無理だ」「いやだ」と思ったのだそうだ。

「汗水垂らして、必死になってやってきたものが、今回の作品なのかもしれないですね。この作品を聴いていただいて、平原綾香がいかにチャレンジしてきたか、慣れないことをやってきたかということが分かると思います」

   5月7日、東京・渋谷のシアターオーブで3月から行われた「メリー・ポピンズ」の最終日を見た。ダンサーも交えた出演者の中で歌はもちろん、踊りも演技も主役の存在感は十分だった。ミュージカルもコンサートも音楽であることに変わりはない。5月19日から大阪公演も始まる。そして6月23日からはアルバムを携えたツアーも待っている。

   アルバム「Dear Music」の歌詞カードでのロングインタビューはこんな言葉で終わっている。

   「親愛なる音楽と共に一生走り続けたいです」

   アルバム発売日は、彼女の34回目の誕生日。

   ジャンルを超える歌の道は始まったばかりだ。

(タケ)

タケ×モリ プロフィール

タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーテイスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。

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