圧倒的な取材力が生きている
一方、シニカルな論者にはこれこそAI技術に委ねた方がましではないかといわれそうなものが、政府の経済政策かもしれない。時事通信の敏腕記者として知られる軽部謙介氏は、新著「官僚たちのアベノミクス―異形の経済政策はいかに創られたか」(岩波新書 2018年2月)で、「2013年からの日本経済を規定し、様々な意味で歴史に残るであろう」というアベノミクスという政策が、「いつ、どこで、誰によって形成されていったのかの原点を記録しておこうという」試みを行った。
著者は、「単純な試み」と謙遜するが、「検証 経済失政」(共著 岩波書店 1999年)、「ドキュメント機密公電」(同 2001年)などで示された圧倒的な取材力がこの本でも生きている。役人は、従来、そのポストを離れると、「忘れた」というのが美徳とされていたと思うが、自分で回想録を書いたりしなくても、このような取り組みに積極的に協力したり、文書を意識して残す努力が求められている。重大な政策形成が人間的な好き嫌いという感情に大いに左右されることが白日の下にさらされているし、元となる経済学の理論も、ディープラーニングと同様、まだ残念ながら自動運転のレベルには達していないと言わざるを得ない。
経済官庁 AK