■「ロボットと生きる社会」(角田美穂子・工藤俊亮編著、弘文堂)
■「官僚たちのアベノミクス」(軽部謙介著、岩波新書)
AIやロボットを法制度でどう受け止められるか
人工知能(AI)やロボットがどんどん我々の日常にも登場してきていることが、世間の大きな関心を呼んで様々な本が日々洪水のように出る。そのような中、評者が大学時代に定番教科書でお世話になった法律学出版老舗の1つの弘文堂が、一橋大学で民法学を専攻する角田美穂子氏と電気通信大学でロボット工学を研究する工藤俊亮氏をホストに、「多彩なゲスト8人との知的刺激に溢れたリレー鼎談で、ロボット・AI時代に向けた法制度をデッサンする!」という斬新な本を世に問うた。
それが「ロボットと生きる社会~法はAIとどう付き合う?」(2018年1月)である。
現在、大変な売れ行きをみせる「AI vs.教科書が読めない子どもたち」(東洋経済新報社)の著者の新井紀子・国立情報学研究所教授が冒頭の第1章「AI技術の今」に登場し、AIとは「統計分類器」だという刺激的なプレゼンテーションを行う。その後の、ホストとの鼎談では、AIを特徴づける、いまの「ディープラーニング」は、「ネズミの脳をモデル化したディープラーニング」で、「人間の思考を模倣したディープラーニング」とはまともな科学者は誰も言わないと断じる。ホストによる後日談は、これらを振り返り、「入力と出力をちゃんと決めて、そこではじめてパターン認識や学習ができるし、精度が何%だと測ることもできるという話」が特に大事だったという。将棋や囲碁で驚異的な成果が上がっているのはそこにある。なお、新井教授が、一橋大学法学部在学中に数学の魅力に気づき、数学を専攻するようになったというのも興味を引いた。
以下、「人は機械に仕事を奪われる?」、「IOT、ビッグデータ時代のプライバシー」、「ロボット社会のインフラと法」、「ロボット演劇の問いかけるもの」「金融のIT化が行き着く先」、「ロボット投信のインパクトを考える」、「医療・介護ロボットと法」というテーマが取り上げられる。
茫漠として捉えがたいAIやロボットを、社会の既存の秩序をあらわしている法制度でどのように受け止められるか、各方面から具体的に考え抜いてみるということは、大いに意義のあることだと感じた。いまのAIは、言語理解もしない「道具」であり、人間は、倫理的・社会的判断をこれに委ねるべきではないというエピローグにおけるホストの言葉を重くかみしめる。法律学を少しでもかじったことのある人にはお勧めしたい1冊である。