古典派の形式ながらロマンティックな曲
時代の転換点というのは厳密に定義するのは難しく、作品の観点からから言うと、1770年生まれのベートーヴェンは古典派最後の巨匠、1797年生まれのシューベルトはもうロマン派の時代の入り口の作曲家と分類されていますが、今日の主人公、1786年生まれのウェーバーは、どう分類すべきでしょうか?父方の従妹がモーツァルトの妻、コンスタンツェだった、ということも考えると、年代だけで分類すると「古典派最後の作曲家」とも言えなくもないのですが、彼は、完全に「ロマン派」の作曲家なのです。
それは、ロマン派の時代に音楽に大きな影響を与えた文学――それは幻想、怪奇、さすらいの旅、神話、ドイツの森の風景――といった要素を持ち、後の我々が「ロマンティック」と呼ぶ雰囲気をたたえた作品がたくさん作られ、消費されました。音楽も、古典派の時代とは明らかに異なり、ロマンティックなメロディーを持ち、ハーモニーはより自由になり、ソナタなどの「形式」がだんだん崩れてくることになったのです。
ウェーバーはロマン派の中ではもっとも初期の世代なので、作る曲は古典派の形式にのっとったものが多いのですが、内容は、ロマン派時代を先取りするような、「ロマンティック」なものがほとんどでした。ベートーヴェンは、古典的な厳格な内容を、交響曲に合唱をつけてしまうなど、革新的な形式で表現しようとしましたが、ウェーバーはその逆で、革新的な怪奇・幻想といった内容を、古典派と共通するクラシカルな形式で表現しようとした、といってよいのだと思います。まさに「過渡期」の作曲家です。
ちなみに、ウェーバー自身は、ベートーヴェンのことを、「音楽的怪物」と否定的にとらえていました。