居眠り電車の偶然 伊集院静さんが語る「嘘のような話」

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出版不況の中で

   伊集院さんの「いねむり先生」(2011年、集英社刊)は、「麻雀放浪記」などで知られる小説家、色川武大=阿佐田哲也(1929~1989)との交流を描いた自伝的小説。題名は色川が抱えていた難病、ナルコレプシー(居眠り病)による。

   当コラムで、電車内の描写を取り上げるのは早3回目となる。それだけ随筆のネタになりやすいということだろう。しかし今回はもめごとも起きなければ、修羅場もない。伊集院さんの軽い筆致で、観たままが書き連ねられるだけである。

   若者の活字離れ、正確には紙媒体離れは、新聞・出版業界の構造不況を招いている。紙の本で世に出た伊集院さんが、文庫本を読みふける若者に目をとめたのは自然だ。私も、まれに車内で新聞を読む人を見つけると、それがどんな新聞でも心で礼を言う。

   伊集院さんは、その文庫本について「最初の4字がひらがな」「うわ表紙をとったデザインはどこかで見た気が」とマサカを予感させ、大団円にいざなう。鮮やかなものだ。

   感心したことがもう一つ。当代きっての人気作家が、ゴルフに行くのにポルシェでもハイヤーでもなく、鉄路を使うことがあるという事実である。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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