「全く音楽と言うのは正直なものですね」
ザ・ナンバーワン・バンドが結成されたのは82年。彼は作詞とヴォーカルを担当している。一枚目のアルバム「もも」には親交のあった桑田佳祐や鈴木雅之、世良公則らも加わっている。最初にレコーディングした「うわさのカム・トゥ・ハワイ」は、「ハワイにきんさい」という広島弁のラップだった。洋楽を紹介しつつ礼賛に終わらない反骨心と遊び心は彼の真骨頂だろう。
新作アルバム「鯛~最後の晩餐~」は、メジャー25年ぶりのアルバム。オリジナルメンバーで彼をバンドに誘った、当時ラジオ・ディレクター、佐藤輝夫が作曲、全ての楽器も演奏している。作詞は全曲が小林克也だ。
何しろ一曲目から「ナムアミダブツ」である。タイトルは「ナムアミダブツ IN 九品仏」。両方の言葉が「ぶつ」という韻を踏んでいるのがミソだ。レコーディングしたスタジオが世田谷区の九品仏にあったのだと言う。二人のじいさんが聞いた「仏の声」。目を閉じて最初に見える言葉こそがあなた自身、という前振りで唱えられるのが「戦争反対」。スネークマンショーの時代から彼の過激なギャグの根底に流れているヒューマニズム。その後に出てくるのが正反対の「やっちゃおう」。一人の人間の中にも世の中にもある二つの声の対比。念仏をこんな風にロックにしてしまえるのも彼ならではだ。
二曲目の「The Noh Men」は典型的なロックのハイウェイソングだ。でもモチーフになっているのは伝統芸能の能である。三曲目の「LET'S MAKE LOVE~REGGAE ONDO~」はジャマイカのダンスビート、レゲエと盆踊りのような音頭。それでいてことさらに和風を強調するわけでもない。洋楽的でありながら模倣にならない。歌うようであり語るようでもある力強さ。声と言葉の存在感が音楽のスタイルを超える。アルバム全体がそういう説得力に満ちている。
「最後の晩餐」というサブタイトルを感じさせるのはアルバムに流れている「自分史色」だろう。7曲目の「FUKUYAMA」は彼の故郷を歌っている。カエルの声色は彼が子供の時にカエルの真似がうまくて「食用ガエル」と呼ばれていたからだ。8曲目の「FOOL FOR YOU~コンチキショウ~」には三橋美智也や春日八郎も出てくる。9曲目「豊満な満月~フムフム・ヌクヌク」はハワイアンテイストで11曲目「STRAWBERRY FIELDS」はビートルズの4人がモチーフだろう。昭和を振り返ったような流れは12曲目の「夢」に繋がってゆく。77才の遺言と言ってしまうと大げさだろうか。
初回盤のブックレットの中で彼はこんな話をしている。
「自分を出そうと強く意識したつもりじゃなかったけれど、自分の内面があふれてしまっているし、いまの時代に向けた説教臭いものをやるつもりだってなかったのに、説法みたいな曲もある。全く音楽と言うのは正直なものですね」
77才。音楽は人を表し、声は年齢を超える。
(タケ)