幼い子が苦労する練習曲に「博士」と名付けた
20世紀になって、フランスの作曲家、ドビュッシーは、ピアノのための曲集「子供の領分」の1曲目に「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」というタイトルを付けました。自らの娘がピアノを練習している姿を描写し、曲の冒頭にはクレメンティの練習曲のモチーフを引用して、次第に、自由なドビュッシースタイルに曲は変化して、若い人の明るい将来を描いている・・という詩的な曲ですが、幼い子が一生懸命苦労して練習している練習曲を「博士」と名付けた皮肉が効いています。芸術音楽というより、無味乾燥な繰り返しで指のメカニズムを鍛える単一目的の曲・・・ドビュッシーは、20世紀初頭の時点で、すでに19世紀前半の練習曲をそういった皮肉の目で見て「本歌取り」を行っているのです。
しかし、ドビュッシーは、自らも最晩年に「練習曲集」を作曲しています。もちろん、ドビュッシーは練習曲のスタイルを借りた芸術曲、を目指して作曲したのですが、ピアノ学習者にとって、練習曲はもはや当たり前の存在になったことをうかがわせます。ちなみに、練習曲は一般的に「エチュード」または「エグゼルシス」と呼ばれますが、いずれもフランス語です。
本田聖嗣