練習曲を登山に見立てたクレメンティ 大げさな題名を皮肉ったドビュッシー

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幼い子が苦労する練習曲に「博士」と名付けた

   20世紀になって、フランスの作曲家、ドビュッシーは、ピアノのための曲集「子供の領分」の1曲目に「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」というタイトルを付けました。自らの娘がピアノを練習している姿を描写し、曲の冒頭にはクレメンティの練習曲のモチーフを引用して、次第に、自由なドビュッシースタイルに曲は変化して、若い人の明るい将来を描いている・・という詩的な曲ですが、幼い子が一生懸命苦労して練習している練習曲を「博士」と名付けた皮肉が効いています。芸術音楽というより、無味乾燥な繰り返しで指のメカニズムを鍛える単一目的の曲・・・ドビュッシーは、20世紀初頭の時点で、すでに19世紀前半の練習曲をそういった皮肉の目で見て「本歌取り」を行っているのです。

   しかし、ドビュッシーは、自らも最晩年に「練習曲集」を作曲しています。もちろん、ドビュッシーは練習曲のスタイルを借りた芸術曲、を目指して作曲したのですが、ピアノ学習者にとって、練習曲はもはや当たり前の存在になったことをうかがわせます。ちなみに、練習曲は一般的に「エチュード」または「エグゼルシス」と呼ばれますが、いずれもフランス語です。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール

私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミエ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを 務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。
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