週刊文春(3月22日号)の「それでも社長になりたいあなたへ」で、ソフトブレーン創業者で経営評論家の宋文洲さんが、ダメな経営者の特徴を具体的に挙げている。
「ある経営者が成功すると、その社長がいかに大物だったか、過去の逸話を語ろうとする友人・知人が増えます。でもそのほとんどが後付けです」。コラムはそう始まる。
宋さんによると、ある人が大事業を成し遂げるだろうと見抜くのは難しいが、逆に「大した経営者になれないな」という予想は、かなりの確率で的中するという。
筆者は「私の偏見がかなり混じっていますが」と前置きして、リーダーに向かない人を四つのタイプに分けて説明する。すなわち...
(1)社内の異性に手を出す 部下の気配りを好意と勘違いしてセクハラに
(2)会社の資金に手を出す 個人と会社を分別しない、オーナー経営者にありがち
(3)社屋にこだわる 居場所の内外装にこだわる人は変化を嫌い、時代に遅れる
(4)地域の活動に熱心 つい懇親会的に集まり、わずかな利益のために時間を浪費
志とチャレンジ精神
(1)については宋さんも、社長時代に苦い経験があるそうだ。
「勘違いをして(というか我慢できなくて)大きなミスをした...それがまじめな恋愛でない場合、間違いなく大きなしっぺ返しが待っています」
同じ男として、宋さんが犯したミスやしっぺ返しに興味がわくところだが、ビジネスエッセイの読者に寄り道は禁物。まずは論旨を追いたい。
(4)に関しては補足説明が必要だろう。
「地元での活動が活発になればなるほど、国や市町村からの行政支援を仲間内で分け合うケースが増える。決して地元の活動自体が悪いといっているのではありません」
上記四つの特徴をまとめ、宋さんはダメ経営者をこう総括する。
「目先の欲望をコントロールできない、保守的な人」
その逆を行けば、成功への道が開けるのかもしれない。宋さんによれば、経営者に欠かせない資質は二つ。すなわち、
◎長期の展望を持ち、短期的な利益や欲望を制御する意識=志(こころざし)
◎慣れた環境から飛び出す勇気=チャレンジ精神
「この二つが欠ける人はどんな分野でも、リーダーには不向きなのです」
リーダーに向かない私
宋さんは54歳、1985年に中国から日本に国費留学し、北大の大学院を出た。営業支援ソフトとコンサルティングを手がけるソフトブレーンを92年に創業、05年に東証一部への上場を果たし、「成人後に来日した外国人」としては初の快挙となった。
世の中には良い経営と悪い経営の二つしかない、というのが持論で、いわゆる「日本的経営」には懐疑的。根性や人情に頼る営業や残業文化には早くから厳しい目を向けてきた。なにかにつけ過去の栄光を追いたがる現政権にも容赦ない。
経営から退いた今は、日本と中国を行き来しながら評論活動やテレビ出演に忙しい。
成功者の経営指南というやつは、たいてい上から目線の自慢話に堕しがちだ。しかし宋さんの連載は、筆者のお人柄もあってか嫌味がない。文章の「ですます」体もうまくシンクロしている。
さて、本題のリーダー論である。私は、いわゆる自己啓発書のたぐいには縁遠いし、40年近い職業人生で真剣に向き合ってこなかったテーマの一つである。
ジャーナリストは個人プレーが基本だ。誰もほどよく自分勝手で、同じ社内でも心を許せる相手はそれほど多くない。そもそも、管理職として他人の人生を左右したり、会議で偉そうなことを言ったりするのが嫌でこの仕事を選んだ者が多い。
宋さんのこのコラムを読んで、改めて、自分はリーダーには向かないのかと思った。
決定的理由が上記(1)-(4)のどれかは伏せるが、密かに「社長くらいできる」と思っていただけに衝撃だった。「これ、たぶんやりそう」というのが一つあったのだ。
冨永 格