敗戦後すぐに、反骨の作家、井上光晴の資金提供の下に発足した老舗出版社・五月書房が現代に甦った。同社渾身の新シリーズ第1弾は、「一強」の構造の中に居座り続ける安倍政権を糾弾する鼎談本だ。
『圧倒的! リベラリズム宣言』という勢いのいいタイトルだが、政治の現状を冷静に分析し、手の届く未来への日本の政治構造を模索する内容になっている。
リベラリズム政治への引き戻しを主張
本書では、森友文書問題で急失速する安倍政権の体質について、経産省・経団連主導の政権運営から、日本社会の上層1%のためのネオリベラリズム(新自由主義)と規定し、日本の政治そのものを99%の国民のための本来のリベラリズム政治へ引き戻さなければならないと主張する。
話者の中でも、山口二郎法政大学教授は、かつての民主党政権の誕生に深く関わり、現在は、安倍政権を批判する「市民連合」の世話人でも知られる。昨年9月から10月にかけて、「市民連合」がブリッジとなる野党協力体制の構築に尽力し、成立を確信したまさにその夜、一本の電話によってその瓦解を知らされる。
同じ日、前原誠司民進党代表(当時)と神津里季生連合会長が小池百合子東京都知事と会合し、共産党を含むリベラル側を切って捨てる選挙態勢をつくることで合意した。電話の告げるその会合から野党側の混迷、分裂が始まった。9月末の段階では自民党の過半数割れさえ予測されていた選挙情勢は、民進党の分裂と希望の党への雪崩れ込み、小池都知事の「排除」発言によって一気に自民党の再逆転の形勢へと揺れ戻した。その情勢展開の真っ只中にいた山口氏の証言はリアルで貴重だ。
枝野幸男立憲民主党代表を引き戻すための前原の電話や枝野本人の迷い、裏切られた辻元清美同党国会対策委員長の行動など、まさにそのときの台風の目の中にいた人間でなければ語ることのできないスリリングな目撃証言だ。
鼎談の話者は、山口氏の他に、外岡秀俊氏(元朝日新聞編集局長)と佐藤章氏(五月書房新社編集委員会委員長)の二人。
外岡氏は海外の政治情勢の現状を分析し、日本の政治を国際的、歴史的な視点から位置づける。佐藤氏は、核燃サイクルなど現状の原子力体制やITゼネコンの問題、日米リベラルの知識人が結集した日本国憲法の歴史的成り立ちの構造などに斬り込み、鋭い。
本書は、復活した五月書房新社が新たに打ち出した『TOPICA2018』シリーズの記念すべき一冊。同シリーズは、対談や鼎談、インタビューなどを中心企画にするという。オーラルものは出版物の中ではたしかに速い。現代の情勢にどこまでタイムリーに迫れるか。シリーズの今後が注目される。