「テーマは前向きな気持ち、尊重、鷹揚、善意」
もし、滞在中に時間があれば話を聞かせて頂けますか。
そんな突然の依頼が実現したのはその二日後。しかも、筆者が行っている番組収録の場所で彼も取材を行っていたという偶然の巡り合わせだった。
彼にとってフォークとはどういう音楽なんだろうか。
「フォークソング自体はそんなに聞いたことがないんです。アコースティックギターを使うというイメージとFolkという言葉には人々、仲間、人生というような意味もある、ということくらいでしょうか。アルバムもフォークというスタイルで今の気持ちを書きたい、自分なりの年代の生活を歌いたいということで作ったんで、アメリカンフォークソングとは少し違って聞こえるのかもしれません」
日本と台湾の歴史は古い。
特に戦前から戦後にかけての半世紀は日本の統治下にあった。今も使われている台湾の生活インフラの基盤には日本が主導して作られたものが少なくない。日本語を話す年輩者が多かったり当時の歌謡曲が歌い継がれているのはそういう背景もある。
「日本の音楽の影響は受けていると思います。最初に覚えた歌は祖父や祖母が歌っていた「桃太郎さん」ですし(笑)。音楽をやるようになってからは椎名林檎さんとかSMAPとかも聞いてました。漫画やアニメ、日本の影響は大きい。台湾語でカバーされていた日本の演歌も多いですから、自分の中にもそういうコード進行はあるんだと思います」
二年前、台湾を訪れた時に現地のアーティストのCDを何枚か聞かされた。先住民音楽と言われる民族音楽は、どれもアコースティックギターで歌われていて、僕らが想像する民族音楽というより「民謡」だった。彼も「僕の中の民謡というのはアコースティックな音楽」と言った。日本のようにアメリカから入ってきた「フォーク」を訳した音楽ではなく「民謡」が下地になったものが彼らにとっての「フォーク」ということになるのかもしれない。
彼がギターを始めたのは、九死に一生を得た交通事故で入院している時で「YOUTUBEで習い始め、曲を作る友人に出会って作曲を始めた」ことだったと言う。自己流で始めたギターで思ったことや歌いたいことを歌う。それこそがシンガーソングライターならではの始まりだろう。
3月21日、東京国際フォーラムで一青窈の15周年ライブ「謝音会」で初めて生の歌を聞いた。「初めて海外で他の人のライブに出た」とは思えない情感豊かな弾き語りを聞かせてくれた。11月16日、赤坂ブリッツのライブが決まっている。
「音楽の力は計り知れないものがあると思ってるんですね。楽しい時、気持ちいい時だけじゃない怒りに満ちている時も音楽を聴くと感情が変わる。アコースティックなものでこれだけ音色の幅も出せることに気づきましたし。やっぱり自然なものが一番と思いました」
日本と台湾の関係は年々親密度を増している。
2015年以来、高校生の海外修学旅行の場所で一位を続けている。彼は「自分の音楽のテーマは前向きな気持ち、尊重、鷹揚、善意」だと言った。
旅をすることは人を知ることでもある。
観光地を回るだけでなく、その国の若者が何を考えているか知ることも発見だろう。
音楽がその最良の友人であることは言うまでもない。
(タケ)