タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」
「台湾のスーパースターなんです」
率直に言って、彼をそんな風に紹介された時、こういう音楽をやっている人とは思わなかった。
盧廣仲。英語名クラウド・ルー。1985年生まれ。去年、5枚目のアルバムが出たばかりだ。
アルバムのタイトルは「What a Folk!!!!!!」である。
直訳するとこういう感じだろうか。
何て、フォークなんだ!
フォークソングの「素朴さ」に留まらない広がりや奥行き
彼を紹介されたのは2018年3月17日、武蔵野の森総合スポーツプラザメーンアリーナで行われた「SONGS&FRIENDS」のコンサートでのことだ。前々回、この欄で紹介した荒井由実のファーストアルバム「ひこうき雲」をテーマにしたコンサートである。
その翌週、21日に国際フォーラムで行われる予定になっていた一青窈のライブにゲスト出演のため来日していた。台湾では最大級アリーナ会場、台北アリーナでのコンサートが毎回完売。去年、一昨年と行われた日本でのコンサートも完売した。新作アルバム「What a Folk!!!!!!」で台湾のグラミー賞と言われている金曲賞(奨)の最優秀男性歌手も受賞している。
というようなことも含め、お恥ずかしい事に紹介されるまで彼のことは全く知らなかった。台湾には90年代以来、日本人アーティストのライブの取材で何度となく足を運んでいる。でも、そういう時は、ライブを見てインタビューして原稿を書いてということで終わってしまう。台湾でどんな音楽が生まれているのか、若者達の間でどんなアーティストが支持されているかまで関心が行き届いていなかった。
彼のことも、彼を紹介してくれたアジアンポップスに精通している評論家が送ってくれた資料や音源を聞いて目から鱗が落ちる思いだったのだ。
台湾の歌い手、と言われてどんな人を連想するかは世代によって違うのだと思う。でも、シンガーソングライターというスタイルを思い浮かべる人は少ないのではないだろうか。かつてのテレサ・テンとまでは言わなくても歌唱力のあるソロシンガーという例が多いに違いない。
盧廣仲は、そういうアーティストとは明らかに違った。「What a Folk!!!!!!」は、そのタイトルが物語っているように、生ギターを全面に出したアコースティックなアルバムだ。それでいて60年代や70年代に日本の若者たちが影響されたアメリカンフォークソングとも違うしっとりと細やかな情緒性や穏やかな温度感を備えている。自分の祖母のことを歌った曲では民族楽器の二胡も使われている。歌詞の中には今の台湾の若者たちの生活感も綴られている。今、日本でイメージされるフォークソングの「素朴さ」に留まらない広がりや奥行きを感じさせたのだ。言葉が分からなくとも伝わる印象だった。