新聞は生き残っていけるか?

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新聞が生き残っていくために

   著者の言葉を借りれば、「今の新聞社は薄氷の上を渡るソリのようである」

   世界に目を転じて、既存の新聞社の中で、デジタル戦略で業態転換に成功しつつあるのは、米国のニューヨーク・タイムズ(NYT)だという。NYTの紙の購読者数は、2011年から2016年の5年間で、103万部から57万部へとほぼ半減したが、デジタル版はこの5年間で60万部から185万部へと3倍に伸びた。

   一見、大成功にみえるが、料金は4週で紙が6800円、デジタル版が1600円と4倍以上違うほか、紙の広告収入が激減した結果、トータルでみると、売り上げは2割、営業利益は3割落ちたという。

   つまり、デジタル版への転換がうまくいったようにみえるNYTでも、経営的には苦労しており、著者は、日本の新聞社でこうしたデジタル版への転身を成し遂げることができるかについて、懐疑的である。

   筆者曰く、日本において、紙の新聞が消えて、それがそっくりデジタル版へと移行するとは考えられないという。おそらくは、新聞社のニュースサイトにアクセスするのではなく、大多数は、Yahoo!などの大手プラットフォームに寄っていってしまうだろうと予測する。つまり、新聞社は、ニュースを取材、制作、整理し、こうしたプラットフォーム会社に納入する存在になってしまうというのだ。

   筆者によれば、紙の新聞がなくなってしまったら、以下のような事態が起こると懸念している。

(1)世に出るべき情報が埋もれる(調査報道が行われなくなる)

(2) フェイク・ニュースが出回る(裏付けがないまま発信される)

(3)常識的な世論が形成されない(同種の意見ばかりが取り上げられ、多様性を欠く)

(4)ニュースの重要度が均衡を欠く(芸能・スポーツが重視され、政治・社会関連記事が軽視される)

(5)興味深い記事がなくなる(訓練されたプロのジャーナリストの記事が減る)

   こうした事態を回避するために、著者は、人件費の大幅カットなどによって徹底的な低コスト化を図り、購読料を値下げして、読者を増やすという改革を提案している。

   具体的には、

(1)値下げ(新聞代は高くなりすぎた)

(2)夕刊廃止(新聞の閲読は1日1回で十分)

(3) 紙面のコンパクト化(20ページで十分、紙面サイズもタブロイドとする)

(4)顧客の集中管理(販売店での顧客管理を止め、新聞社が直接管理へ)

(5) 流通の合理化(取材や編集業務以外はすべて外注化)

(6)人件費の抑制(記者の給料も大幅カット)

(7)販売店の多角経営化(新聞以外もデリバリー、地元企業の販促、ローカルビジネス)

を挙げている。

   著者の基本認識は、この半世紀、新聞業界は、恵まれた環境の下で、高コスト構造に陥り、消費者軽視の傾向が浸み込んでしまったというのだ。事業再生ファンドなどにより、既に破綻している新聞のビジネスモデルを根本的に再構築する必要があると指摘する。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。
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