「永遠の女子校的感傷」
3月17日のコンサート「SONGS&FRIENDS」は、30年来の松任谷由実のステージの音楽監督、キーボーディストの武部聡志が「100年後も聞き続けて欲しいアルバムの遺伝子を伝えたい」とプロデュースするシリーズの第一回。子供の頃からピアノを弾いていた彼はステージで「初めて聞いた時、雷に打たれたような衝撃を受けました。このアルバムを聞かなかったら音楽の道には進んでいなかった」と言った。
今も彼女の音楽を支えている彼が、「自分を変えた」アルバムを細野晴臣(B)、鈴木茂(G)、林立夫(D)、松任谷正隆(KEY)という当時のバンド、ティン・パン・アレイと共に演奏して彼女が歌う。同じように彼女の音楽に影響された次世代のアーティストが、アルバムの曲をカバーするという二部構成。ゲストには原田知世、家入レオ、SuchmosのYONCE、クレイジーケンバンドの横山剣、JUJU、久保田利伸、シークレットゲストで井上陽水が登場した。
溢れるような思い入れとアドリブを交えた今の解釈、時を経て再会したミュージシャンたちの心情。それは、一般的な名盤再現ライブとは一線を画したハートフルな関係性と音楽性豊かなライブだった。
松任谷由実は「ひこうき雲」「MISSLIM」「COBALT HOUR」「14番目の月」と荒井由実時代に4枚のアルバムを残している。今でもその頃の作品が聞き継がれているのは、その年齢ならではの個人的な世界が歌われていることもあるように思う。「永遠の女子校的感傷」とでも言えばいいかもしれない。一生で最も感受性が敏感な年代のアンテナが受け止めた身の回りの出来事。季節の変わり目や移り変わる風景とともに生まれた瑞々しく汚れなき歌の輝き。女性にしか感じられないことや歌えないこと。女性シンガーソングライターというのはどういう存在なのか教えてくれた。「荒井由実」の歴史的意味はそのことに尽きるのではないだろうか。
彼女は「SONGS&FRIENDS」の公演パンフレットで武部聡志との対談の中でこう言っている。
「ただね、わたしは結婚して、意識的に荒井由実から離れようと、まずはしたんですよね。『紅雀』というアルバムでは、あえて荒井由実時代のポップでキラキラしたところから外れようとして大人の女を目指してラテン系の渋いアルバムを作ったんです」
ユーミンが史上、どんな女性アーティストとも違うキャリアの重ね方が二つある。
一つは荒井由実から松任谷由実になって以降の作風の変化だろう。「私小説的作家」から「語り部的作家」へと言っていいかもしれない。誰にでもあてはまる恋のストーリーテラー。80年の「SURF&SNOW」に象徴されるリゾートライフから不倫まで。80年代から90年代というバブルに向かう日本の経済事情や社会風俗も反映した華麗で劇的な恋の物語は都会で暮らす女性たちの夢や憧れのようだった。
もし、戦後日本の復興期の女性たちに夢や憧れを与えたのが美空ひばりだったとしたら、女性が大学に進むこともキャリアとして働くことも普通になった70年代以降の日本の女性にとっては「ユーミン」がまさにそういう存在だったのではないだろうか。
2018年4月11日、デビュー45周年を記念した「ユーミンからの、恋のうた。」が出る。2013年の40周年の時に出た「日本の恋と、ユーミンと。」の続編。レコード会社の女性スタッフが選んだという前作に対して、今回は彼女自身の選曲。それぞれ3枚組計91曲に自分を投影する人は多いはずだ。