フランス近代音楽史上欠かせないレパートリー
1892年、ドビュッシーは、クラシック室内楽の伝統的な編成である「弦楽四重奏」のために曲を書き始めます。ハイドンの時代から重要視されている弦楽器4つの編成で、ドビュッシーは、今までにないことを試みました。
それまで、誰も書かなかったような斬新なハーモニー、独特なリズムの組み合わせ、そして、4人の奏者、ヴァイオリン2人とヴィオラとチェロの、誰がメロディで誰が伴奏、というわけではなく、それぞれの楽器が伴奏もすれば、時には主要なメロディを紡ぎだし、かつ、それらが実に目まぐるしくバトンタッチされる...という、以後のドビュッシーの作品スタイルの定番となった技法がちりばめられています。
1893年に完成したこの曲は、第1楽章の冒頭から力強い4人の同じリズムのメロディーで始まり、約25分をかけて、全4楽章が演奏されます。随所にあふれる緊張感と独特の音の響きは、若いドビュッシーが、それまでの伝統や作品から一線を画し、自らの美学に従って、新たなる音楽を創り出してゆく、という気概を高らかに宣言したかのように聞こえます。
以後、ドビュッシーは、同編成のために曲は書きませんでしたが、この「弦楽四重奏曲」は、クラシック音楽史上、そしてフランス近代音楽史上欠かせないレパートリーとなって、今日も繰り返し演奏されています。
本田聖嗣