思う存分に生きられるか
あれは銀座のビストロだったか、後輩の紹介でお会いした鎌田さんは鮮烈だった。私を見るなり、店中に響く声で「おお兄弟!」である。風貌が似ているという意味だと察し、名刺を交換しながら「私のほうが弟ですから」と念を押したものだ。
諏訪中央病院(長野県茅野市)の名誉院長にして名エッセイスト。チェルノブイリやイラクでの人道支援など、やるべきことをしている人のお茶目は格好いい。
人の健康に寄り添い、生死に向き合う医師は随筆家に向く。書くこと以外に取り柄がない私は、千差万別のラストデイズを共有できるその立場に、職業的な嫉妬を覚えてしまう。
一線を退いても、鎌田さんは緩和ケア病棟で回診を続ける。治癒の見込みが薄い末期がん患者たちの多くが明るく、笑顔を絶やさないそうだ。なぜだろう。
「その答えが、少しわかったような気がした」という名誉院長。「自分の人生を思う存分生きてきた人は、どんな状況でも人生を肯定し、幸福度が高いのだ」と結論づけた。
「限りある人生を、いかに濃密に、いかに軽やかに生きることができるか。3人の患者さんたちに、改めて『自由な時間』の価値を教えられた」
人生という長編のストーリーは、病床に至るまで自由時間との付き合い方で大きく変わる。それはそのまま、自身が振り返るときの「読後感」となるのだろう。
日差しが柔らかくなって、そういえばクリスマスローズの季節である。
冨永 格