歌の中の戦場を目の前の状況が追い越した
「あの時は本当に何をしていいか、どうすればいいか、何を歌っていいかわからなくなりましたからね。それまで9・11の時に感じたような、世界はいつか終わるよと提示しながら、じゃあどうやって生きるのか。死を思うからこそ生きてることに意味があるというような歌を歌ってきて、それがもっとリアルに現実になってしまった。そうなった時こそ違う描き方があるんじゃないか、生きていること自体が宝なんだということに気づかされて作った歌ですね」(松田晋二)
歌の中の戦場を目の前の状況が追い越してしまった。歌の中で提示してきた物語より更に悲劇的なことが起きてしまった。死を語ることで生を訴えてきた彼らが生そのものを歌うようになった。それ以降の彼らの歌はそんな変化のようだった。
3月7日に発売になったミニアルバム「情景泥棒」は、そうした彼らの現在が反映されているアルバムだろう。
20周年を前にした去年、以前から彼らのファンだと公言していた宇多田ヒカルがプロデュースしたシングル「あなたが待っている」を発売、3枚目のベストアルバムも出した。
「宇多田さんと一緒に出来たことは大きかったです。あれだけの才能の人と同じ時間を過ごすだけで違う。ものすごい刺激になった。創作意欲が湧きました。このアルバムもたくさんの曲の中から絞って絞ってこの数になった」(菅波栄純)
アルバムは7曲入り。ジャケットは松田晋二が描いている。これまでと違うのはバンドメンバー4人が曲に参加していることだろう。しかも、テーマが「現在」という時間軸に集約されている。やはり松田晋二が詞を書いたタイトル曲「情景泥棒」は、未来人がこの世界の「情景」を盗みに来るという設定だ。
「未来人はボタン一つで何でも手に入ると思ってるかもしれないけど、今の俺達の世界の喜怒哀楽の繊細な感情やそれが作り出す情景はかけがえのない非売品。それが欲しければ一緒に苦労してみろ、という歌です」(松田晋二)。
今を生きることの愛おしさ――。
もしミュージシャンにならなかったら、今、そんな質問にどう答えるのだろう。菅波栄純は「20周年を迎えて、もう他の人生を考えることはないです」と笑った。
(タケ)