「期待したい」なんて言葉は似合わない
もし、彼らのライブを見なかったら、こんな風に書こうとは思わなかったかもしれない。2月23、24日のZEPP TOKYOで行われたライブはすさまじく面白かったのだ。
それまで全会場がソールドアウトだったというツアーの最終会場の二日間。ボーカルのこやまたくやが挙手を求めた客席の8割は10代20代が占めていた。ロックフェス常連という感じではない普通の若者たちでありながら、演奏になると前の客の頭上を乗り越えて転がってゆくダイブや、押しくらまんじゅうのように密集して踊るモッシュが始まる。それでいてパンク系のロックバンドのライブのような暴力性はなく、いつのまにか客席にフォークダンスのような踊りの輪ができていたりする。メンバーのトークに合いの手をいれたり屈託なく楽しんでいる。笑いが絶えないロックコンサートだった。
彼らは大阪の大学の先輩後輩。平均年齢24才。堺市の老舗ライブハウス「三国ケ丘FUZZ」で活動していた。当時の話をする時も3人の呼吸がまるで漫才のように心地良く進んでいく。
でも、演奏は「脱力」していない。
そうした人を喰ったようなタイトルの曲に全力を注いでいる。一つの曲の中に髪を振り乱して頭を激しく上下させるヘビメタやディスコのようなビートもある。歌詞がそうであるように一つの形に納まらない。中には「肩have a good day」のようにフォークロックのようなメロディアスな曲もある。「肩幅」を人の懐に例えた内容はどこかしみじみとしている。こやまたくやは自分たちの曲のミュージック映像の監督もしていると後で知った。
ナンセンスの系譜と言うと大げさになるのだろうが、ライブを見ながら思い出したのが80年代後半から90年代にかけて女子中高生に爆発的な人気になり、今も活動しているユニコーンだった。
クラシックのコンサートを台無しにしてしまったり温泉の湯舟の中で演奏したり、いきなり象が登場したりという彼らのミュージックビデオはハナ肇とクレージーキャッツに例えられたりした。
その後、Puffyのプロデュースもする奥田民生は「脱力系ロッカー」という形容詞がついた最初のアーティストだろう。「外しの天才」とも言われていた。少なくとも「日本的勤勉さ」と一線を画していたことは間違いない。でも、彼が人一倍ロックに対して深い情熱や愛情の持ち主であることは広く知られている。
世の中はますます窮屈になっている。
建前ばかりがまかり通っている。
そんなことどうでもいいじゃん、と笑ってしまえるような自由で楽しいロックバンド。期待したい、などという当たり前の言葉は彼らには似合わなそうだ。
(タケ)