お金に翻弄される、そんな時代は終わりを告げる

糖の吸収を抑える、腸の環境を整える富士フイルムのサプリ!

■「お金2.0 新しい経済のルールと生き方」(佐藤航陽著、幻冬舎)

   人生の悩みは、人間関係、健康、お金の三つ。

   筆者の佐藤航陽さんは、1986年生まれ。幼少期からお金とは何なのかを考え、大学時代に起業した。FintechやInitial Coin Offeringの普及を通じてお金や経済の有り方が大きく変わっていく中で、新しいお金と経済の姿を大胆に提示している。お金に翻弄される人々が多くいる時代は終わりを告げる、という楽観的な将来像を示してくれる。

感情のやりとりが変わり、お金も変わる

   世間を動かす原動力には三つあるという。お金、感情、そして技術。これら三つのベクトルは互いに影響する。インターネット技術にブロックチェーン技術と人工知能技術が加わったことにより、感情のやりとりが変わり、お金も変わるというのだ。

   2008年にSatoshi NakamotoがBlockchain技術を利用したBitcoinを論文で提唱してから今年で十年。ゲーム理論、暗号理論、Peer to Peer Networkなど理数系の能力をどの程度持っているかで、技術が経済と社会にどのような変化をもたらすか、人それぞれに理解力と想像力が異なる時代である。

   本書のむすびには、物理学の常識を覆したアインシュタインの言葉が引用されている。「空想は知識より重要である。知識には限界がある。想像力は世界を包み込む。神聖な好奇心を失ってはならない」。本書を読む読者に期待される心構えではないかと感じる。

経済を考える上で重要なのは自然界

   佐藤さんは、「人間が関わる活動をうまく回すための仕組み」と経済をとらえる。明快である。

   2018年の世界は、貨幣経済と自由市場経済を採用している。いまからどう変化するのだろうか?佐藤さんには、様々な経済が見えている。企業、商店街、大学のサークル、Facebook。これらも経済を構成する経済なのだ。フラクタル。マトリョーシカのように重構造として経済を理解するのである。

   製品やサービスをお金で取引するのも経済ならば、利用者という母集団に対してあるサービスを提示し、利用者がよろこんでつかうことによってサービスが拡大するなら、その仕組みも経済なのである。求められるのはマーケティングとコミュニティー形成。

   Blogger、Youtuberをはじめ、ネット空間で影響力のある個人は、人々の脳内の快楽を司る「報酬系」という神経回路に訴求しているという。佐藤さんは、経済の仕組みをうまく作るには、脳みその仕組みに忠実になることが近道と説く。その一例が友達や世間に認められる「承認欲求」。SNSの登場によって日常的に承認欲求が満たされるのである。

   もう一つ、経済を考える上で重要なのは自然界というメカニズム。個体と種と環境とが、常に最適になるように調整がされる自然界は、法律や政治よりも優れている。だとすれば、自然界に内在する力を模倣することが、経済が発展する鍵ではないか。(1)自己組織化する力があること、(2)エネルギーを循環する力があること、(3)情報を活用して秩序を維持・強化すること、の三つの特徴が自然界にはある。物理学の分野ではプリコジンが散逸構造と呼び、経済学の分野ではハイエクが自生的秩序と呼んだものだそうだ。このお二人はノーベル賞受賞者。

   組織ではたらく者にとっては、組織もひとつの経済。自分達の組織を維持・強化するためには、情報を活用する、すなわち、企業の理念や将来の目標を言葉で共有することが重要になってくるのではないか。

経済を動かすキーワードは分散化

   これからの十年、経済を動かすキーワードは分散化だという。情報の非対称性に基づいて構築された中央集権化の仕組みや、非対称性を埋める代理人の仕事が、自立分散の仕組みに置き換わっていく。情報やモノ、サービスを仲介する仕事から、独自の価値を発揮する仕事に置き換わっていくのである。

   佐藤さんは、最後に、三つの未来予想をしている。

   (1)Facebookの創設者ザッカーバーグが述べているように、人生の目的は、生きる目標を見つけることから「誰もが人生に目標を持てる世界を創ることに貢献すること」に変わる。他者への共感がキーワードになり、マズローの自己実現の先にある利他的な欲求に領域が拡大するのである。

   (2)企業活動は、利他的な欲求を満たすために巨額の研究投資を行い新たな技術を開発する。多数の機械がつながり自動的に働く結果、人間はお金や労働から解放される。食べるために働く時代から社会的な価値の実現のために働く時代。ドラッカーが提唱した非営利組織の社会の到来と言えるかもしれない。

   (3)ひとびとは、一番居心地のよい仮想空間で長い時間を過ごすことになる。SNSの登場により承認欲求が可視化され、その次には五感を他者と共有する「統合欲求」ともいうべき新しい欲求がブームになるのである。

   はじめてFacebookを利用した時、プライバシーが脅かされるのではないかと不安を感じた。それから5年、仕事でも私生活でも、SNSは欠かせない。その経験から、佐藤さんの三つの未来予測に共感する。

   内外を旅すると、人口減少がつづく地域や、海外のさまざまな場所で、社会をよくするために懸命に活動する多くの方々に出会う。そうした方々にとって、本書が、佐藤さんの三つの未来予想が、明るい希望となることを願いたい。

経済官庁 ドラえもんの妻

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。
姉妹サイト