残雪で測る民度 酒井順子さんは「強すぎる世間」を実感した 

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理事長のボランティア

   酒井さんの玉稿をお借りした以上、私自身の、軟弱な雪かき体験についても書かなければ礼を欠く。幸か不幸か小さなマンションに住んでいて、そもそも「家の前」がない。玄関先の雪は、通いの管理人さんが除けてくれた。

   ただ、私は管理組合の理事長(輪番)でもあり、あの日はマンション周囲の点検がてらご近所を回った。朝からびしっと雪かきを済ませているのは、なんといってもコンビニだ。お客の安全確保に加え、たいてい近くに競合店があることも大きいだろう。そして「ファミマらしくない」「セブンともあろうものが」といった世間の目である。

   大雪2日後の昼下がりだったか、わがマンション前のツツジが積雪の重さで倒れかけているのに気がついた。スルーするわけにはいかない理事長である。

   管理人にスコップを借りに行く。彼は恐縮しながら、プラスチック製と金属製のどちらがいいか聞いてきた。男ならゴツイほうで勝負だ。ところが、これが思いのほか重い。

   悪いことに、植え込みに積もった雪は地上1メートルほどの位置にある。持ち慣れない道具を時にバットのようにスイングし、締まった雪を半ばふらつきながら叩き落としていく。一刻も早く作業を終えたくて、足元の凍結路面を気にする余裕などなかった。

   なにしろ「白昼の住宅街でスコップを振り回す不審者」である。後ろ指どころか、世間様に通報されるかもしれないのだ。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。
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