タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」
きっとJ-POP系のどんなアーティストでも歌ってみたいテーマというのがあるのだと思う。
例えば「桜ソング」や「卒業ソング」であり「クリスマスソング」。日本の四季の暮らしに密接なかかわりのある行事や習慣をどう歌うか。それは作家にとっても腕の見せ所ということになる。
もう一つ「東京」がある。花の都東京。ポップスや歌謡曲などのジャンルを問わず日本の大衆音楽の中で最も歌われてきた街。特に東京出身ではない人たちにとっては、人生の喜怒哀楽最大のドラマが繰り広げられる舞台である。
今年の1月、JUJUが「東京」というシングルを発売した時、彼女にとってもそういう時期が来たのかと思った。
自分のライブ会場を「スナックJUJU」に例え
JUJUは、高校を卒業後、単身ニューヨークへ渡っている。憧れのマンハッタンでジャズやクラブミュージックの洗礼を受けるかたわらファッションブティックで働いていた経験を持っている。ニューヨークでの音楽仲間と作っていた曲が評判になって日本でデビューしたのは2004年。90年代の終わりに宇多田ヒカルやMISIAなどの女性シンガーが引き起こしたR&Bのブームが頂点に達していた時だ。マンハッタン直輸入最先端クラブミュージックのきらめきは、確かに「この人、誰」という鮮烈な印象だった。しかも、当時はプロフィールを明かしておらず「ニューヨーク在住」という触れ込みが神秘性に輪をかけていた。
ただ、業界受け、というのだろうか。デビュー曲「光の中へ」と同じ年に出た「CRAVIN'」の二枚のシングルは全く売れなかった。彼女はその頃のことを筆者のインタビューに「こんなはずじゃなかったと落ち込みのどん底だった」と話したことがある。出世作となった2006年の3枚目のシングル「奇跡を望むなら..」は、もしこのシングルがダメなら日本での音楽活動を諦めるという最後の願いが託されていた。「奇跡」というのは、自分の成功のことでもある。
そういう意味で言えば、JUJUの活動は「日本とアメリカ」「J-POPとジャズ」という二つの岸辺で動いてきているように思う。とくにシングル曲は今のJ-POPを支えるアレンジャー、プロデューサーを起用し、誰もが口ずさめるメロディーが軸になっていた。アルバムでは女性シンガーのカバーアルバムとして初のアルバムチャート一位を二週連続して記録した「Request」がある。JUJUに歌ってほしい曲のリクエスト募集で選ばれた曲はJ-POPの名曲ばかりだった。
「Request」の後に出したのはジャズのアルバム「DELICIOUS」で、これもジャズのアルバムとして初のアルバムチャートトップ5入り。その後も節目にはニューヨークでのライブが組まれていたりした。
そういう意味で両方に大胆なふり幅を見せたのが2016年だった。ライブなどで歌ってきた洋楽カバー120曲から選んだベストアルバム「TIMELESS」発売、同時に自分のライブ会場を「スナックJUJU」に例えたライブを開催、邦楽カバーシリーズ「Request」の第三弾の「スナックJUJU」のサブタイトルは「夜のリクエスト」、70年代80年代の歌謡曲をカバーしていた。
そんな流れの中での「東京」である。
歌うべきテーマにたどり着いた、と思ったのは筆者だけだろうか。
「かわいそうなのはあたし」だった
「東京」が収録されている2月21日発売の新作アルバム「I」は、2年2か月ぶりのオリジナル。「I」は「愛」であり「自分」と言う意味だ。「一人」という読み方も出来るかもしれない。「東京」という世界で最も輝いていると言って過言ではない街に暮らす女性の心の内。光が強ければ闇も深い。華やかさと裏腹な心の空白。誰もが秘密を抱えながら本当のことを口に出さずに生きている。何度抱きしめられても確かめきれない不安やもどかしさと戦っている大人の女性の愛の物語は「愛の語り部」を自称している彼女の真骨頂だろう。
作家陣にはこれまでの彼女の音楽を支えてきた作家のほかに小田和正や平井堅なども加わっている。中でも平井堅が書いた「かわいそうだよね」は、アルバムを象徴する曲になっている。
つまり、「選ばれた女」であるために「平凡」であることを馬鹿にし、そういう子を「かわいそう」と笑っていた自分が今、同じような境遇にいる。自分に出来ることなど何もなかったと述懐し「かわいそうなのはあたし」だったと歌っている。作者の平井堅は「美しい、切ないJUJUナンバーは既に沢山あるので、今までの彼女に無い、泥臭い、心の嗚咽の様な曲を目指したつもりです」というコメントを出している。
「酔い覚め感」とでも言えば良いだろうか。はしゃぎ過ぎた夜が明けた時のようなとりとめのない重さ。青春とは呼べない年齢を自覚した時の途方に暮れるような寂寥感。どの曲からも、そんな「都会の女性の愛と孤独」が見えてくる。迷いながら裏切られながら、最後に泣いたのがいつかも思い出せない。大丈夫と自分に言い聞かせながら、それでも共に歩ける「あなた」とのめぐり逢いを求めてゆく。
そんな物語に「東京」も「マンハッタン」も変わりはないのかもしれない。
(タケ)