在宅医療の量と質の大幅アップに向けて
すべての団塊の世代が後期高齢者となる2025年に在宅医療を必要とする患者は100万人を優に超すと見込まれている。その先の2040年の死亡者見込みは約168万人。今よりも30万人以上増える見通しだ。
このように在宅医療の需要が大幅に拡大していくことが予測されている一方で、実際の提供体制については、確固たる目途は立っていない。
著者は、本書のあとがきで、国が謳(うた)うほど、在宅医療が広がっていない理由として、以下の3つを挙げている。
(1)介護家族が仕事や家事で忙しい
(2)夜間や急変時の対応に不安がある
(3)開業医も24時間対応がつらい
そして、4つ目の理由として、本書のテーマともなった「在宅医の技量」を指摘する。
確かに、いずれも解決が容易ではない課題だ。
しかし、一口に在宅と言っても、自宅に限られない。最近は、老人ホームやサービス付き高齢者住宅で在宅医療を受ける人も急速に増えている。介護家族が忙しい場合でも、「通い」「泊まり」「訪問」といったサービスをパッケージで受けられる小規模多機能型と呼ばれる事業も増えてきている。
著者は、町の開業医のキャパシティの限界を認めつつも、これからは「地域密着型の中小病院(在宅療養支援病院)」に期待したいと語る。これまで病院は、治す医療を掲げてきたが、今は、治し支える医療を標榜する中小病院が増えてきている。多くが地域包括ケア病棟やこの4月からスタートする介護医療院を有し、介護施設やデイサービス、ショートステイなどを併設している。こうした資源をフル活用すれば、難題の24時間対応もこなすことができるというのだ。
今年は、診療報酬と介護報酬の同時改定が行われる年であり、在宅医療の普及に向けて、グループ診療による実施など、様々な支援策が盛り込まれている。2025年に向けて、在宅医療の大幅な量的拡大を期待したい。
しかし、本書が指摘しているとおり、何といっても、在宅医をはじめ在宅医療の人材の質を上げることが焦眉の急だ。
技術面は当然として、看取りという究極の状況に立ち向かう患者・家族を支えるコミュニケーション力が必要だ。それは単に患者・家族との関係にとどまらない。在宅療養を支える多職種から成るチームが最大限の力を発揮できるように、連携を保ち続けるためのものでもある。
本書で、著者は、看取る患者に必要なのは<情報>であり、看取る医者に必要なのは<経験>と<情>だという。経験豊富で、情に厚い人材を各地に増やしていくことが必要だ。
同時に、患者を送り出す病院側の人材も、リアルな在宅医療の現場をよく知る必要がある。
「急性期病院の退院調整スタッフの多くは、在宅医療の現場を知らないし、見たこともないし、見たくもなさそうである。もちろん『平穏死』も知らない。地域包括ケアシステムの構築を本気で考えるのであれば、退院支援スタッフの教育からやらないと絵に描いた餅となるだろう」
質量ともに、在宅医療の大幅なバージョンアップに向けて、これまでにない本格的で総合的な取組みが求められている。
JOJO(厚生労働省)