ペパーミントが体にもたらす効果と聞くと、皆さんは何を思い浮かべますか?
清涼感があり口腔内をすっきりさせる、主成分であるメントールで冷感を得るといった作用はよく知られていますが、実はおなかに関係する諸症状の改善効果が期待されています。
私のクリニックでも、便秘や腹部不快感に悩まされている患者さんにペパーミントウォーターやペパーミントティーを毎日300ミリリットル、1日3回飲用してもらったところ、症状が改善する方が現れ、ミントの持つ腸への改善効果を強く実感した経験があります。
腹痛や下痢に苦しめられ日常生活に支障をきたす
古くからペパーミントは健胃・鎮痛作用などがあり消化器系の病気に効果があるとされ、漢方薬の成分としても利用されてきました。現代においても、大腸の内視鏡検査を行う際、腸の動きを抑制する効果があるとして使用されています。さらに、病気の改善効果も期待できるかもしれません。
「過敏性腸症候群(IBS)」という病名を聞いたことがあるでしょうか。名前が示す通り、大腸に腫瘍や炎症はないのに腹痛や腹部の不調、便秘や下痢など便通の異常が数か月以上続く病気です。
20~30代の若年層に患者が多く、女性がやや多い傾向にはありますが、男性も発症し下痢に悩まされる例が多いとされています。命に関わるような病気ではありませんが、明確な発症原因はわかっておらず、腹痛や下痢に苦しめられ日常生活に支障をきたすため、厄介な病気であると言えます。
ストレスによって腸の収縮運動が激しくなり、痛みを感じやすい知覚過敏にもなっていることが確認されており、消化器の病気というだけでなくストレス病でもあるのです。治療には生活習慣の改善や腹痛を改善する薬、腸の動きを改善する薬、場合によっては抗うつ薬・抗不安薬を服用するのが一般的です。
欧米ではこれらに加え、ペパーミントオイルやペパーミントを含む錠剤も有効である可能性を示唆する研究が発表されてきました。
臨床現場でも治療効果を実感
ドイツや英国では、症状が軽いIBS患者の代替医療としてペパーミントオイルの有効性が以前から指摘されています。また、2007年にはイタリアでIBS患者をペパーミント含有錠剤と偽薬を与えるグループに分けておなかの状態を比較する試験が行われ、ペパーミントグループで有意な症状改善が確認されました。
なぜペパーミントがIBSの症状を改善するのでしょうか。後年行われた動物実験で、ペパーミントの主成分であるメントールが神経伝達物質の「セロトニン」と「サブスタンスP」の放出を抑制することが確認されています。
セロトニンは腸の運動を活発にさせる物質で、IBS患者は食後にセロトニンの放出が活発になっています。サブスタンスPは痛覚の伝達に関係し、腸を収縮させて消化物を運ぶ役割を担う平滑筋に作用します。
メントールの作用によって、腹痛などを引き起こす腸の筋肉の緊張状態が正常化し、IBSの症状改善効果がもたらされていると考えられます。
私が考案した、ペパーミントティーにココアパウダーとオリゴ糖を加えた「ココア・ミントティー」でも味と香りで気分が落ち着き、ココアの食物繊維とオリゴ糖の腸内環境を整える作用によって胃腸がすっきりする効果も実感できるでしょう。
現代ならではのストレスが関係する病気へのミントの効果を、ぜひ皆さんも感じてみてください。(後編に続く)