タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」
こんなにガチンコなカバー曲のライブがあっただろうかーー。
2015年11月、大阪のフェスティバルホールと東京の中野サンプラザで行われた「中島みゆきリスペクトライブ「歌縁」」を見た時にそう思った。
タイトルにあるように様々なアーティストが中島みゆきの曲だけを歌うというライブである。多くは「トリビュートライブ」として行われる類のものだ。でも、今も活動中のアーティストに対して「トリビュート」というのはいかがなものだろうか、と「リスペクト」というタイトルになった。歌うのはすべて女性である。すでに発売されているライブアルバムに収録されているだけでも満島ひかり、中村中、矢野まき、安藤裕子、華原朋美、中島美嘉、平原綾香、クミコ、坂本冬美、研ナオコ、大竹しのぶ、というそうそうたる顔ぶれが参加した。
はじまりは満島ひかりの「ファイト!」
ガチンコ、というのはマジ、という意味だ。
かといって他のトリビュートライブがそうではないという意味ではない。熱唱するとか、愛着を込めるとか、敬意を表すというような言葉では表現できない緊張感があるライブだったのだ。
誰がどの曲を歌うかは希望制で重複した場合は話し合うという中で決められたというそれぞれの曲は、どれも中島みゆきの一つの時代や歌のスタイルを代表する名曲ばかり。世間的な意味でのヒット曲ではなく、その歌い手が思い入れや必然性のある歌を歌う。なぜその曲を歌うのかという理由がある分、一般的な名曲カバーと違ってくるのも当然だろう。その歌と本気で向き合っている。その歌と出会った頃の自分と対話している。その頃の自分と戦っている。それが客席に伝わってくるライブだった。
何しろ、アルバムの一曲目が満島ひかりの「ファイト!」で始まっているのだ。
小学生の時に、三浦大知らも一緒だったダンス&コーラスグループ、Folderでデビュー、解散後に役者として開花した彼女が歌うとも語るともつかない感情を抑えた「ファイト!」は、まるで自分に言い聞かせているような説得力があった。「夜会」で共演している中村中の「化粧」や中島美嘉の「命の別名」は、歌っているより泣いているようでもある。クミコの「世情」は、70年代の大学のキャンパスを知っている世代の鎮魂歌のようだ。その曲を歌う、というより、その曲の本質に迫ろうとする、その歌を借りて自分の「内なる姿」をさらけ出そうとしている。コンサート中、何度も鳥肌が立つほどだった。
それは全員が女性だったということもあるのかもしれない。歌に対してのガチンコぶりだけではない。それぞれの参加者がお互いの歌で勝負している。オムニバスライブにありがちな「お祭り感」がない。これだけキャリアのある歌い手が、中島みゆきの歌を通して自分のアイデンティティを証明しようとしている。こんなに笑顔の少ないリスペクトライブも珍しかったのではないだろうか。