四字熟語の味わい 五木寛之さん、覚悟のカミングアウト

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友よ、果報は寝て待とう

   五木さんに話をもどす。作家には、恥じ入るときに自分にかける呪文があるという。

〈まあ、いいさ。命まで取られるわけじゃなし〉

   「生きていさえいれば、楽しい夢を見て、しばし幸せな気持ちになれる」のだから。

   かの夢の何が幸せだったかといえば、楽しい夢にしては珍しく「最後まで」いったというのである。

   食糧不足の戦時中、五木さんは山盛りの中華饅頭や今川焼の夢をよく見たそうだ。いずれも食べる直前で「夢消」してしまい、食欲が満たされることは決してなかった。敗戦後の思春期に見たセクシーな夢も同じで、常に未遂で終わっていたという。ご本人の言葉を拝借すれば「雲散無精」だ。ところが今度ばかりは、中身は覚えていないが確かに「完結」したと。

「すべての友よ、諦めてはいけない。果報は寝て待て、だ」

   まさに「嬉嬉一発」、ご同慶の至りです。


冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。
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