友よ、果報は寝て待とう
五木さんに話をもどす。作家には、恥じ入るときに自分にかける呪文があるという。
〈まあ、いいさ。命まで取られるわけじゃなし〉
「生きていさえいれば、楽しい夢を見て、しばし幸せな気持ちになれる」のだから。
かの夢の何が幸せだったかといえば、楽しい夢にしては珍しく「最後まで」いったというのである。
食糧不足の戦時中、五木さんは山盛りの中華饅頭や今川焼の夢をよく見たそうだ。いずれも食べる直前で「夢消」してしまい、食欲が満たされることは決してなかった。敗戦後の思春期に見たセクシーな夢も同じで、常に未遂で終わっていたという。ご本人の言葉を拝借すれば「雲散無精」だ。ところが今度ばかりは、中身は覚えていないが確かに「完結」したと。
「すべての友よ、諦めてはいけない。果報は寝て待て、だ」
まさに「嬉嬉一発」、ご同慶の至りです。
冨永 格