自制という厄介な問題にみな悩んでいる

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もうひとりの自分とどう付き合うか

   締め切り近くなって計画を放棄した、という苦い経験を持つ読者は少なくないのではないか。社会規模でみても、プライマリー・バランスの達成の年限は、10年代初頭とされていたのが、20年度になり、またまた先送りされるとも聞く。成長戦略でも意欲的目標を立てたのはよいが、その実現の度合いは必ずしも満足のいくものではないという報道も目にする。もちろん、最近の成長戦略ではKPIs(Key Performance Indicators)による進捗管理という手法が導入されているから、中間段階で実現の度合いを測ることができること自体、昔日に比べて進歩していないわけではない。ただ、総じて進捗が遅いとされていることをどう評価するかというのは、別途考えるべき問題である。期限が近付くと、リーマン・ショックという格好の口実が天から降ってくることもあれば、デフレ、プライマリー・バランスという指標の正当性への疑問など、様々な言い訳が社会規模で繰り出される。本当に無理な計画であれば見直すほかないが、繰り返し起こる現象の背後になにかあるのではないか、冷静に考えることも重要ではないか。

   もちろん、個人単位の双曲割引と社会規模の現象を結びつけるためには、もう少し細かい議論が必要であろう。社会は多様な個人や下位の組織からなる複合体である。社会規模の現象の場合には、役人や政権の任期という問題を念頭におく必要があるだろう。財政などの大がかりな問題の場合、双曲的なのは政府だけではなく、むしろ国民であるのかもしれない。しかしながら、国民からみれば、プライマリー・バランスの黒字化にコミットしていたのは、あくまで政府であって、自分たちではないと感じていても不思議ではない。

   行動経済学では、このような問題に対処するため、様々なcommitment devicesが提案されている。老後の家計設計など自身の個人的な事柄、あるいは社会規模のコミットメントの問題に立ち向かうためにはどうすればよいのか思案しながら本書を読めば、自分のなかの他者、ながらく「福音」に浴して数億年もの間生き延びてきた生きものとしての自分という存在を強く意識するようになるだろう。

経済官庁(課長級) Repugnant Conclusion

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。
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