引退したいロッシーニによる「抵抗の証」? オペラ「ウィリアム・テル」誕生秘話

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プロデューサーの圧力を避けパリへ

   しかし、プロデューサーたちからの作曲依頼が引きも切らないイタリアではそれはかないません。なので、彼は、フランス・パリの歌劇場の依頼を受けることにします。題材は、スイス独立の英雄とされる「ギヨーム・テル」。日本では英語で「ウィリアム・テル」と呼ばれるのが通例ですが、オリジナルはフランス語台本なので、初演の時は「ギヨーム・テル」でした。

   30代後半の脂の乗り切ったロッシーニが作曲したオペラは、もちろん大成功をおさめ、同時代の作曲家たちも、この作品を意識せざるを得なかった、といいます。現在は上記のような時間的・キャスティング的理由で、オリジナル版が演奏されることは少なくなっていますが、序曲は有名ですし、短縮版でオペラが上演されることもあります。ロッシーニが自ら決めた「引退作品」は、彼の代表作の一つとなったのです。

   オーストリアの圧政に苦しむスイスで、弓の名手ウィリアム・テルが祖国を鼓舞し活躍する話のこのオペラですが、イタリアのプロデューサーの圧力のもと活躍していたロッシーニが、フランスへ逃げて、引退して、少し自由に生きたい・・彼は、そんな願望を込めて作曲していたのかもしれません。

   胸が躍るような、軽快なスイス騎兵隊の行進曲が序曲の最後に出てきますが、「ウィリアム・テル」は今日も世界の人々に勇気を与えてくれます。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール

私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミ エ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソ ロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを 務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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