■フリー・エージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか(ダニエル・ピンク、ダイヤモンド社)
働き方改革により、職場での働き方が変わる。では、職場以外の働き方はどうなるのか――。
アメリカでは、20年前からフリー・エージェントの台頭が注目されていた。その数は3300万人、労働総人口の25%にのぼる。フリー・エージェントという言葉を著者は定義していない。彼らは、大組織に縛られることなくプロとして自立する個人であり、年齢も20歳代から70歳代まで幅広い。
本書は、フリー・エージェントがどのような人生観、職業観を持つかを明かし、医療保険、雇用、職住分離などの制度改革を提言し、これからは智恵と経験を生かす、定年退職後のフリー・エージェントが多数現れると予測する。
著者は、日本でいえば元キャリア官僚のダニエル・ピンク氏。クリントン政権でライシュ労働大臣の補佐官、ゴア副大統領の首席スピーチライターを務め、自らフリー・エージェントに転身した人物である。
失業リスクも少ない
家庭と仕事の間に境界線を明確にもうけるかどうか。ラドクリフ大学の調査では、20~30歳代の男性の20%は、給料のいい仕事ややりがいのある仕事よりも家族と一緒に過ごす時間をとれる仕事を好ましいと考えている。いわばワーク・ライフ・「ブレンド」。家庭に仕事を持ち込むのである。
フリー・エージェントが増加した背景には、職業観、職業倫理にも新しいうねりがあるという。先々の報酬のために若いうちは下積みの努力をするのではなく、いま満足感が得られる仕事を選び、質の高い仕事をして社会に対して責任を果たす。こう考えるとピラミッド型の組織と長期間の雇用契約をするよりもプロジェクト単位で仕事を選ぶことが好ましいとの結論になる。
若い世代に職業観の変化を引き起こしたのは、大企業のリストラであると筆者は説く。1998~99年にアメリカの大企業が解雇した従業員数は130万人と10年前の6倍近い。しかも失業率は過去30年で最低だというのに。
大企業にしがみつくリスクがかつてなく高まり、離職していくつかの顧客を常に相手にするフリー・エージェントの方が収入も増え失業のリスクも小さいという新しい常識が生まれ、自分を磨き仕事を分散することが合理的だと考えられ始めたのである。
成長期の大企業は職の保障とひきかえに組織・上司への忠誠心を求めていた。タテの忠誠心である。この忠誠心に関しても、一つの組織で長期間働くことが能力や適応力の向上をはばむと考える人々が増えた。その結果、顧客や仕事仲間など手元の名刺にある人々との信頼関係、つまり「ヨコの忠誠心」が重視され始めた。
本書では、フリー・エージェントに会社を辞めて転身した人々の、「どんな仕事をするときも、お金をもらって勉強させてもらっていると考える」とか、「会社と社員、上司と部下の関係が顧客や同僚の関係に代わる。誰かの下で働くことはなくなった。」といったコメントが紹介されている。