足元は洪水、上空からは小雨
第1楽章の冒頭から、激しい独奏ヴァイオリンと、弦楽合奏が、争うように早いパッセージを弾き、ヴィヴァルディ独特のハーモニーの心地よい進行に乗せられていると、私は、足元は洪水、そして、上空からは小雨が降っている霧の立ち込めた冬のヴェネツィアの広場を、速足で駆け抜けているようなイメージを想像してしまいます。
最近では、徐々に人気が出てきているようで、フィギュアスケートの音楽や、CMの楽曲として、「冬」が単独で聞かれることも多くなったように感じます。
現代では「四季」のおかげでバロックの巨匠のひとりとされるヴィヴァルディですが、彼は、仕事を求めたウィーンで不遇のうちに亡くなったということもあって、死後しばらくは忘れられた作曲家でした。
しかし、多くのすぐれたヴァイオリン協奏曲などを残し、それを遠く離れたドイツのJ.S.バッハが、イタリアの協奏曲形式の勉強のために、編曲をしたり、自作の中に取り入れたりしていたため、バッハがドイツで再評価されるようになると、自動的にそのバッハがリスペクトしていたと思われる、ヴィヴァルディの作品にも陽が当たり始め、再評価されて、今日の高評価につながってゆくのです。
厳しいヴェネツィアの冬は過ぎて、また麗しの春がやってくるはずです。
本田聖嗣