子供時代からの仲間が年月を経て結集・制作
浜田省吾は、今、最もチケットが手に入らないアーティストの一人である。ようやく手に入れたチケットを握りしめて客席で目を凝らしていた人には、浜田省吾以外は記憶に残っていないという人もいるのだろう。この映像で初めて気づくことも多いのではないだろうか。
コンサートよりもコンサートらしいーー。
試写会での感想がこれだった。
そうした映像がふんだんに使われていながら、主体はライブだ。浜田省吾本人はもとより演奏するミュージシャンの表情や仕草、客席からは見えないディテールが音楽に乗って切り替わってゆく。監督の板屋宏幸はライブやミュージック映像など、30年間近く浜田省吾を撮り続けている。この映画のために一年間かけたという編集は丁寧で細やかだ。流れ落ちる汗や激しいアクションなどをことさらに強調する演出的な意図も感じさせない。曲のフレーズの聞かせどころやミュージシャンの見せどころ、バックの超一流ミュージシャンがいかに音楽を楽しんでいるかを次々とさりげなく見せてゆく。曲の構成やステージの展開、ミュージシャンの人柄も知り抜いているからこその音楽との一体感がひたすら気持ちいい。全てはステージとともにある。それは「浜田省吾のライブ」以外の何物でもなかった。ライブの全体像というよりライブの本質を伝えるという意味でも稀有な作品ではないだろうか。
筆者が見た試写会は、ドルビーアトモスという新システムでの会場だった。天井にもスピーカーが仕込まれているという立体的な音響は、会場全体を音の中に包み込むようだった。少なくとも映画館は音の環境が物足りないという従来のイメージが一変することは間違いなさそうだ。
浜田省吾はテレビに出ない。動く姿を見ることが出来るのはコンサート会場だけだ。そこには彼だけでなく音響や照明などのスタッフの人生も集約されている。彼のツアースタッフには人生の大半を彼と過ごしているというキャリアの持ち主も少なくない。
浜田省吾は、この作品についてこうコメントを出している。
「板屋監督をはじめとする制作スタッフのひとりひとりは、皆、この世界における子供時代からの仲間です。ある時は衝突し、ある時は称え合い、励まし合い、それぞれの世界で成長してきた同志です。才能と情熱を持った少年達が技術を磨き、経験を積み、年月を経て結集し、制作したライブ作品が完成しました」
その後にコンサート会場、劇場に足を運ばれた人たちへの感謝の気持ちを述べている。
2016年のアリーナツアー「ON THE ROAD 2016」は、デビュー40周年という背景もあった。音楽は聴き手の存在あってこそだ。CDの曲がライブで演奏され、それが映像になる。それぞれにしか表現的できないこと。アルバム「Journey of a Songwriter」の三部作的完結編がこれだろう。映画館の客席がどういう反応をするのかを確かめてみたいと思った。
(タケ)