タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」
久しぶりに映画館に足を運んでみて、その環境の良さに驚いたという年輩の方もいらっしゃるかもしれない。
清潔な館内の座り心地の良い座席。どんな大画面のテレビでも敵わないスクリーンと5.1chサラウンドが普及した大音量の迫力。ここ数年、ライブ・ビューイングと呼ばれるライブの同時中継をはじめ、劇場公開を目的とした音楽映像が数多く作られるようになったのも当然の成り行きと言えそうだ。
映画館で音楽を楽しむーー。
二か所のライブを一本化
2月2日から公開される浜田省吾の初の映画館上映作品「旅するソングライター」は、そんな流れの中でも特筆される作品になっている。
2015年に発売され、二週間一位を記録、最年長記録となった10年ぶりのオリジナルアルバム「Journey of a Songwriter~旅するソングライター」を携えた二つのツアー、2015年のホールツアー「ON THE ROAD 2015」と2016年のアリーナツアー「ON THE ROAD 2016」を収めた「旅するソングライター」には、こんなキャッチコピーがついている。
"コンセプチュアル・ライブ映像"――。
今や当たり前のようになったライブ映像作品には二つのスタイルがある。
一つは、ライブの再現を目的としたものだ。ライブ会場での臨場感をどこまで忠実に再現できるか。客席にいるのと同じような空間をどう体感させるか。キャッチコピー風に言えば「あの感動をもう一度」という形である。ライブを見た人も見ていない人にも、それがどういうライブだったか伝えることを目的としたものだ。
もう一つは、それとは違うドキュメンタリー的な作り方がある。ステージでは見えないオフショットや楽屋などの様子を織り込みつつ、その人の素顔や人間性を感じさせようとするものだ。ステージでのイメージとの落差は対象がビッグネームであればあるほど貴重なものになってくる。
浜田省吾の「旅するソングライター」は、そのどちらでもない。それぞれが3時間を優に超える二つのツアーの大阪フェスティバルホールとさいたまスーパーアリーナを一本化した1時間56分は全編がライブである。そういう意味では100%ライブ作品と言って良い。全てがライブで成り立っている。
それでいて映像はライブだけではない。収録された二つのツアーは、アルバム「Juorney of a Songwriter~旅するソングライター」の中の曲の世界を増幅する映像がふんだんに使われていた。ライブでは浜田省吾やメンバーが演奏する背後に流れていたそれらの映像がより効果的に使われている。
アルバムのテーマに「旅」に沿った映像。レコーディングやツアーの時以外はほとんど海外を旅しているという浜田省吾の旅行中の姿、彼が登場していない風景カット、そして戦後70年に発売されたアルバムの中核でもあった戦火と地球を伝えるニュース映像。新たに加えられ、演奏よりも映像が前面に出ている曲もある。CDに始まりライブで更に立体的になったアルバムの世界が映像として表現されている。単にライブを記録したというだけではない。コンセプチュアル・ライブ映像というのは、そういう意味だ。