業界とはなんのつながりもない素人
ただ、去年は、そうしたAKB48の独壇場となっていたアイドルシーンの転機となる年となった。その象徴的な場面が年末の第59回日本レコード大賞だろう。周知のように大賞を受賞したのは初ノミネートの乃木坂46「インフルエンサー」だった。2011年、"AKB48の公式ライバル"として発足して6年。本家を押しのけての受賞だった。
それだけではない。大賞を争ったのはAKB48と2015年に結成された欅坂46。"笑わないアイドル"として注目を集めてきた妹分。作詞家・秋元康プロデュースの集団制アイドル三組が初めて同じ土俵に上がって凌ぎを削ったという意味でも特筆される年となった。
その一方でSKE48、NMB48、HKT48ら姉妹グループの人気も衰えをみせない。一人のプロデューサーの影響力がこれだけ強大になったのも日本の音楽史上初めてのことだろう。更に、去年はモーニング娘。の結成20周年の年でもあった。レコード大賞の最優秀新人賞を受賞したつばきファクトリーは、モーニング娘。のデビューとともにスタートしたハロープロジェクトの研修生で組んだグループだった。20年の積み重ねは脈々と生き続けている。
というような話は、今更、ということになるのかもしれない。アイドルシーンの奥深さや裾野の広さは、そうやって括れない形で新しいヒロインを生み出している。例えば、アイドルグループとヘビーメタルを組み合わせ、海外ツアーにまで発展していったBABY METALの成功はその最たるものだろうし、秋葉原のライブステージやメイド喫茶の従業員たちが結成、すでに複数回の武道館公演を成功させている、でんぱ組.inc。歌唱力に特化して紅白にも出場したリトル・グリー・モンスターもいる。
少し前は"地下アイドル"と揶揄されていたアイドルたちからも前述のメジャー・アイドルとは違う個性的な存在がいくつも登場している。1月6日、ZEPP TOKYOで見た4人組アイドルグループ、ゆるめるモ!は、まさにその申し子のようなグループに見えた。
"無手勝流""脱力支援""ニューウエーブ"。ゆるめるモ!には、そんないくつかのキャッチフレーズがついている。
彼女たちの結成は2012年。バックパッカーとして放浪経験を持つフリーライターが、ももいろクローバーZに触発され、路上スカウトでメンバーを集め、学生時代のバンド仲間で曲を書くところから始まったという異色の成り立ちを持っている。つまり全員が業界とは何のつながりもない素人。去年の11月には3枚目のフルアルバム「YOUTOPIA」を発売、二度目の台湾公演、初の韓国公演も成功させた今もインディーズ、既成の芸能事務所には所属していない。音楽好きが集まって手探りで活動しているというまさに"無手勝流"。グループ名には"窮屈な世の中をゆるめる"という意味もある。元ひきこもりもいるというメンバー4人のメッセージが"脱力支援"。ロックやテクノ、ノイズミュージックやアンビエントミュージック、それでいてJ-POP。洋楽ロックのマニアックな要素をミックスした音楽性は確かに"ニューウエーブ"だった。
ZEPP TOKYOは彼女たちの5周年ツアーのファイナル。音楽を通じてユートピアを目指すという新作アルバム「YOUTOPIA」は、15曲入り70分超の力作。ライブは2時間半をゆうに超えた。決して美女でもグラドルでもなく、むしろ普通にすらなれなかった女の子たちの嬉々とした全力投球の歌と激しい踊りやシャウト。そこにはなぜこれをやっているかという自分たちの言葉と意思が備わっている。
メジャーとサブカルの違いは"個"にあるのだと思う。"全体"よりも"個"。彼女たちは今の世の中で押しつぶされそうな"個"を音楽を通じてアイドルという形で解放しているようにも見えた。「UTOPIA」ではなく「YOUTOPIA」。ユートピアは"君と過ごすライブ会場"。客席に女子の姿も多かったのはそんな姿勢が伝わっている結果だろう。
群雄割拠。今年、アイドルシーンは、どんな風に変わってゆくのだろうか。
(タケ)