オシャレな雰囲気を狙った結果
ところで、この「楽興の時」という変わった題名は、もともとシューベルトが、この新しいジャンルのピアノのための小品集を出版するにあたって、フランス語でつけられた題名でした。本人の発案か、出版社の意向かはわかっていませんが、ドイツ語圏のウィーンで、わざわざフランス語にした、ということは、ちょっと「オシャレ」な雰囲気を狙ったものだと思われます。
しかし、表記は、Six Momens musicals となっていて、これはフランス語でありえない複数形、つまり文法的に誤りであり、現在では、正しい表記のSix moments musicauxと、訂正されて印刷されています。そのまま直訳すると、「6つの音楽的時間」となるわけですが、日本語に翻訳する人も「オシャレ」を意識したのでしょう、「楽興の時」という文学的な翻訳をし、広く定着しています。
このある意味あいまいな題名のもと、自由に作られたピアノ小品集というジャンルは、フォロワーを生み出し、その後、ラフマニノフなどが、同じフランス語表記の「楽興の時」と名付けたピアノ作品集を作曲しています。
本田聖嗣