いわゆるアンシャンレジームが崩壊し、市民層が台頭し、産業革命が始まった19世紀前半は、同時代の新作だけではなく、少し古い時代の音楽を聴くという「クラシック音楽」が成立した時代であり、一方、文学とともに、新しいムーブメントが音楽に生まれた「ロマン派」の時代でもありました。
音楽も「ソナタ形式」「変奏曲形式」「組曲形式」などの、ある程度の規則を持ち、形を重視する音楽はそれ以前の古典派の時代に成立していましたが、ロマン派の時代になると、もう少し自由な形式、というよりも、タイトルこそあるものの、中身は雰囲気さえあれば形式などにはとらわれない「性格小品」という曲のジャンルが登場します。
以前に登場した「ノクターン(夜想曲)」などもそのうちの一つといってもよく、音楽が宮廷や教会の中にあり、形式にのっとって書かれた時代から、「空気感」を大事にする「流行に敏感な庶民たち」のものになった、ということも言えるかと思います。
テレビ・ラジオ、CMで耳にするあの曲
今日は、シューベルトのピアノ曲、「楽興の時」を取り上げたいと思います。それまでのどのジャンルにも属さない、「性格小品」をシューベルトは作り出しました。シューベルトは管弦楽においては交響曲、ピアノ曲においてはソナタといった古典的形式を持つ曲もたくさん作曲しましたが、古典派からロマン派への端境期に位置した作曲家らしく、幻想曲や即興曲といった、既存の楽曲形式ではあるが、形式とは名ばかりで、中身はほぼ自由に書ける曲や、それまでのどのジャンルにも分類されない「楽興の時」のような新ジャンルをも生み出しました。
「楽興の時 作品94 D.780」は、シューベルトが26歳から31歳にかけて作曲した、6つの小さな曲からなる曲集です。そのうち、「ロシアの歌」とも呼ばれる第3番は、日本でもテレビ・ラジオの番組やCMで頻繁に耳にする大変な人気曲であり、彼の存命中から評判だったようです。第6曲も、「中世フランスの吟遊詩人の慨嘆」というタイトルを付けられ、別のクリスマスアルバムにも収められています。