ネタ帳も書き溜めもありません
ソングライター・西野カナに対しての見方が変わったのは、2012年のシングル「SAKURA,I love you?」の時だ。彼氏と一緒に桜を見ている彼女が、隣にいる「彼」とは違う別れた「君」を思っているという異色の桜ソングは、それまでの友情ソングとは違う女心の複雑な裏表を描いていた。これまでのアルバムの中の曲にもシングルになっている曲のような女子への「エール」や「友情讃歌」とは違う女性特有の辛辣さが見え隠れする曲も少なくない。新作アルバム「LOVE it」で言えば「Liar」という曲がある。嘘つき、である。
「女の子にはどっかに隠し持った毒みたいなものもあると思って、この歌は、浮気をしてるんだけど、うまく騙せているんじゃないかと思っている男性への挑戦状ですね(笑)」。
彼女にはもう一つの「形容詞」がある。それは何かにつけて語られる「平成生まれ初」というものだ。2010年に2枚目のアルバム「to LOVE」がアルバムチャート1位になった時は「平成生まれ女性ソロアーティスト初の1位」。去年、「あなたの好きなところ」がレコード大賞を受賞した時も今年のドームツアーも「平成生まれ女性ソロアーティスト初」だった。
「ネタ帳もないし、書き溜めもありません。貯金ゼロ(笑)。次、どうしようと思うことはたくさんありますけど、10年そうやってきたんで何とかなるかなと。一年一年考え方も経験も変わってきますからまた何か発見して書いていきます」
自分の成長が歌になる。成長した自分が感じた人間関係が作品に反映されてゆく。等身大というのはそういうことなのだと思う。
一つの世代にはその世代特有の文化がある。
もうすぐ新しい元号が始まる。
彼女は、文字通り平成世代の申し子ということになりそうだ。
(タケ)