知的興奮が抑えられない傑作
後世のいろいろな研究者がバッハの作曲意図や、作曲上の工夫を探ろうとしましたが、まだすべては明らかになっていません。また、印刷されて出版された初版の楽譜に、バッハ自身が書き込みをしている事実がわかっています。バッハはおそらくさらに手を入れて、改訂版を作る計画があったのです。現代の出版譜はある程度それらの「書き込み」も反映されていますが、バッハの「本当の完成版」を我々は、ひょっとしたらまだ手にしていないのかもしれません。
円熟のバッハが、渾身の力を込めて作りこんだ「変奏曲」は、本当は眠くなるどころではない、知的興奮が抑えられない傑作だったのです。ピアニスト、グレン・グールドは、1955年、当時全く知られていなかったこの曲を自らのデビュー録音に取り上げ、一躍この曲と彼自身の名前を有名にしました。
本田聖嗣