谷山浩子「終電座」で終わる
アルバムのトーンが変わってゆくのは9曲目の「煙突がある街」からだ。歌っているのはザ・クロマニヨンズの真島昌利。92年の歌である。スモッグを吐き出す煙突のある街で暮らす若者は組合活動に従事しストライキで前歯を失った。しかも、その時のことが口実で訴えられて「暴発寸前」。この歌をMr.Childrenの桜井和寿と音楽プロデューサーの小林武史が彼らのバンド、Bank Bandが取り上げたことで知った人も多いはずだ。10曲目のARBの「ファクトリー」は、経営者と労働組合に分かれて戦った父と息子がテーマという稀有なストーリーソング。まさに「ワークソング」的ロックの代表だろう。
息詰まるような流れを変えるのは11曲目、玉置浩二の「田園」。96年のシングル。どんなことがあっても「生きてゆくんだ」という不変のメッセージ。12曲目、奥田民生がユニコーンを解散して最初に発売した94年のシングル「愛のために」は「働くオッサン」への「道草のすすめ」だ。気持ちを解放してくれる8ビートのピークになっているのが13曲目、浜田省吾の「I am a father」である。「家族のため」「妻との一日を無事に過ごせることを祈っている」「ムービースターでも」「ロックスター」でもない父親へのエールはライブでも大合唱になる。仕事や会社、あるいは、国家や戦争。日本のポップミュージックが避けてきたテーマを取り上げて良質なエンターテインメントとして確立してきたオリジネーターが浜田省吾ともう一人、忌野清志郎だろう。14曲目に入っている彼の「パパの歌」は「働くパパ」を子供目線で歌っている。91年のシングルだった。
日本のポップミュージックは「労働」をどんな風に歌ってきたのか。アンコールの一曲目のように聞こえるのは15曲目「労働讃歌」。歌っているのはももいろクローバーZである。女性アイドルが「労働」を歌う。作詞は筋肉少女隊の大槻ケンジ。2011年の勤労感謝の日に発売されたこの曲はアイドル新時代を実感させた曲でもある。
最後を締めくくっているのは16曲目、谷山浩子の2007年の「終電座」。その年のアルバム「フィンランドはどこですか」の中の曲を知っている人は彼女のファンだけだろう。日本に来た外人がまず驚くという満員電車。酔客で殺伐とした車内の光景を彼女は宮沢賢治の「銀河鉄道」のように歌っている。
「おつかれさまの国」で始まり「終電座」で終わる「ワークソング」16曲で見えてくるもの。それは60年代以降の日本の「勤労感謝の現実」なのではないだろうか。
(タケ)