繰り返される企業の不祥事 足りないのはトップの「美意識」か?

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「一見してイイものはイイ、ダメなものはダメ」

   その一例がマツダである。3年間で売上を2兆円から3兆円、営業利益を380億円から2000億円に増やした背景に、「魂動(こどう):Soul of Motion」というデザインコンセプトがある。日本の伝統的な美意識を生かした世界のトップブランド戦略だ。リーダーの前田育男氏ができばえを判断する。

「一見してイイものはイイ、ダメなものはダメ」

   顧客の声を聞くのではなく、顧客を魅了できるかどうかを見極める。マツダは、美を判断する物差しは社内においているのである。

   その一方で、日産自動車、神戸製鋼で品質管理に関する問題が起きている。

   現場感覚としては問題ないと判断したとしても、なぜ、社会の変化、ルールの変化に適合させようとしないのか? ルールの変化を承知の上で、まさか悪意を持って品質管理をおろそかにしていたのか? むしろ、現場はおかしいと感じながら社内の雰囲気や上司の空気を忖度していたのか?

   いずれにしても、欠如しているのは、はたらく個人の倫理観。

   マックス・ヴェーバーは近代産業化時代に現れるだろう人材を予言している。

「精神のない専門人、心情のない享楽人」

   村上ファンド、ライブドア事件は、まさにそうしたできごとであった。

   ソクラテス以来、「おかしいものはおかしい」と考え、新たな価値・理念を提起してきたのが哲学。現場の美意識・倫理観を尊重しない社風、会社の方針に従っていれば悪いことも気にならない現場、では社会と遊離した企業になってしまう。「社会の変化に適応し、成長するには、美意識だけでなく、真善美すべてに判断の物差しを磨くべきではないか」と山口氏は問いかける。現場の人間の美意識を信じる社風は、シリコンバレーにはあるし、日本にもある。コンプライアンスの名の下に、現場を上司の枠にはめてしまうと、かつてのビッグ3の二の舞になりかねない。

   「暗黒の中世からルネッサンスが起きたように、物質主義・経済至上主義の19世紀・20世紀から、Humanism回復の21世紀が来ることを願う」という著者の希望に賛同したい。そして、日本の産業界こそ、哲学、真善美を尊重し、人間性の回復を先導する、という宣言がされることを願いたい。

経済官庁 ドラえもんの妻

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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