「ノクターン」は何が革命的だったのか 発明者フィールドの生涯と時代

全国の工務店を掲載し、最も多くの地域密着型工務店を紹介しています

「あまりはっきりしない中間的な気持ち」を表現

   そして、音楽史上においても、ノクターンは重要な役割を果たしました。19世紀を代表する偉大なピアニストにして作曲家、フランツ・リストは、彼のノクターンを「軽いため息が漏れ、あたりを漂っているようだ。かすかな哀しみを感じる。やがて音が甘美な憂鬱の中へと溶けてゆく。」と評しましたが、誠に的確な論評です。

   実は、ノクターンは「たゆたう、漂う音楽」で、それまでのソナタ、とか変奏曲、のように「絶対に前進する」音楽ではなかったのです。古典派の最後の巨匠といってよいベートーヴェンの交響曲などは典型的な「驀進する音楽」ですが、フィールド以降のロマン派の時代のトレンドとして、「あえて前には進まない」ためらいつつ、漂う音楽が存在感を増してきたのです。ベートーヴェンが「人類の理想」などを歌い上げたのに対し、ノクターンなどは、「個人的な気持ち、あまりはっきりしない中間的な気持ち」等をあらわすのに向いていたのです。これは、ショパンなど、この後の多くの作曲家のインスピレーションの源泉となりました。

   フィールドがピアノによって作ったノクターンは、まだまだ素朴な曲でしたが、彼が生み出した「脱・古典派構造」のジャンルは、その後の大勢のフォロワーたちによって、19世紀以降の音楽世界に、大変豊かな実りをもたらしてくれるきっかけとなったのです。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール

私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミ エ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソ ロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを 務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

姉妹サイト