変わってゆく、というのが音楽を作るエンジン
彼のメジャー一枚目となった2014年のアルバムのタイトルは「Yankee」。移民である。タイトルの意味を「バーチャルな世界からリアルに移民してきたから」と言った。その中には、世の中に適応出来ずにバーチャルな世界に「自閉」していた自我が恐る恐る人と人のつながりを求めて痛々しく儚いまでの美しさが描かれていた。2015年のアルバム「Bremen」は捨てられ傷ついた動物たちが安住の地を求めてゆく「ブレーメンの音楽隊」と重なりあった。そのアルバムは、求めていた楽園にたどり着いたかのような安らかな曲で終わっていた。
「作り終わった時に幸福な気持ちになったんですけど、それも一瞬の出来事で、世の中はどんどん変わってゆくわけです。今、そんなものは存在しないと思うし、変わってゆく、どこか遠くへ行きたいというのが音楽を作る自分のエンジンになってますね」
新作アルバム「BOOTLEG」はレコード会社の移籍第一弾である。「声出してゆこう」という再出発のような先行シングル「LOSER」には「ここは楽園か」「俺は負け犬」という歌詞もある。驚いたのは一人で踊る姿が映像化されていたことだ。それも「遠くへ行くための変化」の一つに見えた。すでに評判を呼んでいる俳優、菅田将暉とのデュエット曲「灰色と青(+菅田将暉)」は彼の方から熱望した結果ということだった。初めて女性ヴォーカルを取り入れた池田エライザとの「fogbound」も「彼女の声とデュエットしてみたかったから」と言った。そこには「コラボレーション」という新しい花が咲いたようだった。
「一年前には誰かとデュエットしようなんて考えもしなかったでしょうね。インターネットの中の人間だった自分がここまで来れた。そこに希望を抱いてくれる人もいるかなと思います」
全14曲には思春期の痛みと向き合ったような曲も自画像のような曲もある。変わりゆくために自ら「BOOTLEG」と呼んだ新作オリジナルアルバム。転がり続けつつ開花してゆく26才の「今」を刻んだ記念碑のようなアルバムなのだと思う。
(タケ)