高齢化で進展する認知症になった際の経済的負担に備える「認知症保険」が、50、60代を中心に注目を浴びている。
今では複数の保険会社からサービスが出ていて、売れ行きも好調だそうだ。そこで、認知症介護にかかる費用の実態、各社サービスの違いを、ファイナンシャルプランナーの小川千尋氏に話を聞いた。
認知症にならないと気付かない!想定外の出費
――厚生労働省の「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」によれば、日本の認知症有病者数は約462万人(2012年時点)で、65歳以上の約7人に1人といわれます。2025年には約700万人に増え、約5人に1人になるそうですね。認知症と診断された場合の治療費はどのくらいか、教えていただけますか。
小川千尋氏 「慶應義塾大学医学部と厚生労働科学研究の共同研究グループが推計したデータ(2014年)によると、1人あたりの入院医療費は月々で34万4300円、外来医療費は3万9600円です。これは公的健康保険の自己負担を考慮していない金額で、ここから自己負担割合に換算した金額を負担することになります。外来医療費は、1割だとすれば、3960円ですね」
――認知症と診断されて気付く、想定外の出費もあると聞きます。
「徘徊にかかわる費用などは、そうですね。私の知り合いも、ご両親のどちらかに『徘徊癖』があるため、誤って家の外に出て事故などにあわないように、窓もドアも高い所にカギを付けたそうです。GPS機能がついているスマホをぶら下げてくれればいいのですが、そうとは限りませんからね」
――メットライフ生命保険が行った調査「認知症と診断されて気づいた5つの想定外の出費」(2017年9月発表)では、認知症の親御さんの運転免許証を返却したところ、タクシーを度々利用するようになって、多数の領収書が送られてきた、との事例もあります。自宅内のトラブルとしては、どんなものがありますか。
「物忘れが増え、いつも探し物をしていたり、周りへの気遣いがなくなり人柄が変わるなど、何らかのサインに周りの方が気付くことが早期発見につながります」
――住環境の変化で受ける精神的なストレスで認知症の症状が進行すること(リロケーション・ダメージ)もあるそうですね。
「そうですね。遠方の親を自分の近くに引っ越させると、一気に認知症の症状が進んだ、という体験談を聞いたことがあります。私の近所から金沢へ行くことになった方は、向こうの家を前の家とそっくりにしたそうです。70歳を過ぎた方ですが、環境が変わると、症状が進むそうです」
――認知症有病者の介護費用は、認知症でない人と比べ、どのくらいかかるのですか。
「認知症の介護は、認知症でない介護の約2倍はかかるという大ざっぱな認識でよいと思います。公益財団法人家計経済研究所のデータによりますと、認知症が重度の場合、要介護度が1以下から2、3、また4、5へ上がるにつれ、当然ながら費用もかかるようになります」
「慶應義塾大学医学部と厚生労働科学研究の共同研究グループが推計したデータ(2014年)では、介護費用(6.4兆円)とインフォーマルケアコスト(6.2兆円)が同じくらいでした。インフォーマルケアコストとは、家族などが無償で提供する、公的機関や専門職によるサービス以外の支援を指します。それだけ社会に経済的損失を与えているのですね。認知症がひどくなっても、施設に入れず、家で面倒を見るため、子どもが会社を辞めざるを得なくなることもありますね」
――認知症は、すぐに治るものではありませんよね。
「現在の医学では治らないと言われています。認知症にも色々なタイプがあり、アルツハイマー型認知症の場合、新薬を開発しているみたいですが、まだ確実に治せる薬はありません。ただ症状を抑えられる薬は出ています。早期に発見して適切な治療を受けることが重要となってきます」