詩は沈黙に近い言葉でプロテストできる
谷川俊太郎の詩は、69年から歌っている。
「谷川さんを教えてくれたのは、やはり詩人の茨木のり子さんなんです。歌にするんだったら、絶対にこの人の詩を読まないとだめよ、と言ってくれて。とっても日常的で言葉にリズムがある。その時、彼が暮らしていた軽井沢に会いに行って、こういう曲なんですと目の前で歌いました。なんて怖いもの知らずだったんでしょうか(笑)」
76年には二人のコンビで「いま生きているということ」77年に「父の歌」という名作アルバムも発表している。まだ「コンセプトアルバム」という言葉すらない時代に稀有なクオリティのアルバムだった。78年の「プロテストソング」は、谷川俊太郎・小室等のコンビによる三部作のいわば完結編だった。
「プロテストソングは、書き下ろしと既発表のものと半々だったんですが、今回は、全て既発表の曲。以前よりもどこか悲観的な気がします」
二枚を聴き比べると、いくつもの変化がある。歌い手としての小室等の声やメロディーには年輪が刻まれ重みや感慨が加わっている。谷川俊太郎が自選したという詩には、前作にはなかったいくつもの「死」が見え隠れしている。それでいて深刻にも声高にもならず、より透明度を増してゆくように感じるのが彼の真骨頂だろう。
アルバムの歌詞カードの二人の対談の中で、小室等は、谷川俊太郎に対して「今、詩を書くということはどんなものなんでしょう」と大胆な質問を投げかけている。
それに対して谷川俊太郎は「情報の氾濫で行動が希薄になって言語ばっかりが増幅している」「意見とか情報という言語の過剰に対して詩というのは出来るだけ沈黙に近い言葉でプロテストできるんじゃないか、みたいな気持ちがありますよね」と答えている。
「僕たち流のプロテストソング」というコンセプトで作られたという前作から39年。音楽状況はもちろん、言葉を取り巻く社会環境も激変している。
谷川俊太郎は、1931年生まれ。でも、「老詩人」という言葉ほど似合わないものはない。フォーク界の「長老」として気骨ある活動を続けてきた小室等が歌う2017年の「プロテストソング」――。
アルバムの一曲目「希望について私は書きしるす」は、いくつもの「希望」について歌っている。
二人にとって希望とは何か。
アルバム最後の曲は「木を植える」だった。
(タケ)