財政・経済政策にとどまらない幅広い政策提言
こうした状況に政策担当者や研究者は手をこまねいていたわけではない。1990年代以降、経済学者や経済官庁などは財政について様々な試算やシミュレーションを行い、様々な財政再建策を提案してきた。しかし、対策は一向にとられず、問題は先送りされてきた。過去にはなかった、国債をはじめとする金融的な手法が発達して、次世代に負担を先送りすることが可能になったためである。
終わりにおかれている第8章で、各章の提言が簡潔にまとめられている。ここから、それぞれの章に戻って詳しく読んでもらうとよいと思う。「適切な経済・財政政策が民主主義過程で政治的に通らないこと」を深刻に受け止めた、「財政と民主主義」についての財政・経済政策にとどまらない幅広い政策提言となっている。
有権者の判断を、目先のところだけでなく、長期化する施策として、まずは、先進民主主義国中の最高レベルの財政についての情報開示制度や、世代の利害にとらわれない、長期の財政状況の推計や財政政策の分析などを任務とする中立的な「独立財政機関」の設置を主張する。
また、政治哲学の変更や、予算制度、国会運営、社会保障と地方財政の改革などについて様々な具体的な施策を提言する。特に、「第6章 膨張する予算~借金で賄う公共サービス」で田中秀明氏(明治大学公共政策大学院教授)が説得的に論じる、日本の社会保障制度が、本当に困った人に支援がいかない「非効率」な制度であるとの透徹した分析・指摘には改めてはっとさせられた。社会保障負担が、所得に対してきわめて逆進的だというのだ。