北イタリアで突如「完成型」として登場したヴァイオリンは、その後の歴史を変えてしまった

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世に名高い「ストラディヴァリウス」が生まれるまで

   現存する最古のヴァイオリンは、クレモナのリュータイオ、アンドレア・アマティが1565年ごろ制作したといわれる楽器です。その後、アマティの技術は、息子のアントニオとジローラモに受け継がれ、さらにジローラモの息子、ニコロ・アマティによって受け継がれ、「クレモナのアマティ一族」は絶頂期に達します。私が、知人から見せてもらった楽器も、専門家の鑑定によると、サインは父のものだが、製作はニコロで、彼の初期モデルに間違いない、と判断されているものだそうです。

   アマティ一族が生み出したヴァイオリンは、ほぼ、現在と同じ形のものでしたが、少しだけサイズが小さく、アマティ一族の楽器の特徴となっています。登場したころのヴァイオリンは、少しだけ小ぶりだったことをうかがわせますが、そんなに小さくても、あたりを圧倒する豊かな音が出る・・偶然、私は、先日また別の「ニコロ・アマティ制作の楽器」が奏でられる演奏に接することができたのですが・・・修復や整備が何度もされているとはいえ、300年以上たってもアマティ一族の複数の楽器が、時には数千人のホールで、マイクなしで朗々と音が届く・・という豊かな響きを生み出しているのを見ると、ヴァイオリンという奇跡の楽器のポテンシャルに驚かざるを得ません。

   アマティ一族の栄華は親子三代、約100年にわたって続きますが、その後、ニコロの弟子、と称していた(実はアマティ工房側には正確な記録がないので、眉唾なのですが)天才リュータイオが登場します。アントニオ・ストラディヴァリです。

   彼は平均寿命が50歳の時代に、16歳から93歳で亡くなるまでの約80年間もの長期間にわたり、ヴァイオリンを含む弦楽器を制作し続け、1200ともいわれるヴァイオリンを世に送り出しました。現存するヴァイオリンは600丁と少し上回る台数だといわれています。これが世に名高い「ストラディヴァリウス」と呼ばれる名器たちです。

   ストラド、と略称でも呼ばれる楽器は、アマティのものよりも大きく、これが、現代のフルサイズのヴァイオリンのスタンダードな大きさ、とほぼ言えるでしょう。

   たくさんの弟子を抱えたアマティ工房から出たと思しきストラディヴァリは、11人の子沢山であったにもかかわらず、結局彼の高度な技法を受け継ぐ職人は現れませんでした。本当に「一代限り」の輝きだったのです。

   アマティ一族や、ストラディヴァリのほかにも、グァルネリ一族と呼ばれる、ヴァイオリン制作者たちが、この時期のクレモナで活躍しました。本当に、この時期のクレモナは、様々な条件・・木材やニスの原料などの入手のしやすさ、音楽活動が国境をまたいで盛んになったこと、つかの間とはいえ平和であったこと、様々な条件が重なって、完成度の高い、現代まで、小改良だけで生き延びることのできる奇跡の楽器「ヴァイオリン」を生み出したのです。

本田聖嗣プロフィール

私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミ エ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソ ロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを 務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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