最後にとっておいた思い入れの強い1曲
当然、ドビュッシーは、若き時代の「月の光」を意識したかもしれませんが、あちらが、ヴェルレーヌの詩や、実際に訪れたイタリア・ベルガモ地方の風景描写という雰囲気を持つのに対し、この曲は、月の光だけでなく、その下で謁見が行われているテラスという言葉が題名に入っているので、さらに描きたいことがあるように思われます。それは何だったのでしょうか・・?
実は、その内容、または、ドビュッシーのインスピレーションの源泉は、全く解明されていませんし、本人も言い残していません。年代的に考えて、イギリス王ジョージ五世が、インド皇帝に就任した戴冠式典の様子を伝えたジャーナリストの新聞記事が、ドビュッシーにこの曲を書かせる契機となった、という推測がされていますが、フランス人であるドビュッシーにとって、どうも動機が弱いような気がします。
しかし、この曲は、「前奏曲集第2巻」の最後に書かれた曲であることは伝わっています。最終曲の「花火」ではなく、第7曲のこの曲を最後に完成させて、「前奏曲集 第2巻」を脱稿したのです。
最後にとって置くぐらいドビュッシーは思い入れを持ってこの曲を書いたようですし、彼にしか書けない、実に不思議なハーモニー、謎めいた月の光の描写、そのもとで静かに進行する物語・・そういったストーリーを感じさせる曲となっているのです。