音楽に物語を求める
童話は大人のためにあるお話、という言い方は特別なものではないだろう。大人だからこそ理解できる教訓や人生観が綴られていたりする。彼女の曲もそうだ。一見あどけない話に毒が潜んでいたり、かわいらしい話の落ちが人間の生死にかかることだったりする。アルバムの一曲目の「きつね」は宮沢賢治の「土神ときつね」がモチーフになっているという。嘘つきのきつねと神様のお話は、「言葉を選ぶ」という意味の作詞という概念では語れない。
その最たるものが、「螺旋人形」だった。編曲を担当しているのが「世にも奇妙な物語」の音楽で知られる作曲家、蓜島邦明。月も夜も花も、全てがねじれて飛んで行く世界。螺旋階段と死んだ子供。インタビューをしていて「怖かったですよ」と感想を口にすると、彼女は「うれしい」と笑った。「いい曲ですね」でも「素敵な曲ですね」でもなく「怖い曲」と言って「うれしい」と言われたのは初めての経験だった。
「横溝正史に出てくるわらべ歌のような曲が書きたかったんです。殺人の見立てに使われるような歌。わらべ歌だけどちょっと不穏な感じにしたかった」
もちろん、そういう物語だけではない。愛らしいリスの恋物語もある。それぞれが絵本やおとぎ話集のように一枚のアルバムになっている。
彼女は、「今のポップスは全く知らないんです」と言って笑う。歌を書くというよりお話を作る。これまでの彼女の書いた曲が、ゲームやコミック好きな若者たちの間で静かなブームになっているのだそうだ。
音楽の聴かれ方が変わってきている。
音楽に物語を求める。
それも一つの非日常体験でもあるのだと思う。
(タケ)