何と耳障りのいい時の流れがそのまま音に
バンドのメンバーは、次の通りだ。
浜田省吾(V)、町支寛二(G・V)、長田進(G・V)、美久月千晴(B)、小田原豊(D)、河内肇(P)、福田裕彦(Key)、古村敏比古(Sax)清岡太郎(Tb)佐々木史郎(Tp)、中嶋ユキノ(V)竹内ひろみ(V)。このメンバーが関わるアーティストの名前をあげるだけでJ-POPの歴史が語れてしまうという強者ばかり。ちなみに美久月千晴と長田進は井上陽水のツアーメンバーであり、小田原豊は今年の夏に28年ぶりのツアーを行ったレベッカの一員。レコーディングのスケジュールの大変さが心配になる売れっ子ばかりである。
そして、このメンバーが、それぞれの曲のアレンジを担当している。ミュージシャンとして思い入れのある曲、アレンジし甲斐のある曲。その全体をプロデュースしているのが浜田省吾という作り方をしている。管楽器のミュージシャンが手掛けた曲はオリジナルよりもホーンセクションが味わい深かったり、ピアノがフィーチャーされていたり、コーラスが前面に出ていたり、メンバーが歌っている曲もある。
プロデューサーの浜田省吾は、やはり前述の会報誌「ROAD&SKY」でのインタビューでバンドのメンバーと話したことについてこう言っている。
「一番の大きなポイントは、ボーカルアルバムを作るつもりはないんだということ。これだけ素晴らしいミュージシャンがそろっているので、その曲をテーマにして楽器演奏の部分を大切にしたいということ。歌が50%、楽器が50%、そういうものにしたい」
何と耳障りのいいアルバムなんだろう。
これが最初に聞いた時の印象だった。
音が柔らかい。
時の流れがそのまま音になったかのように空気がゆったりとしている。メンバーの呼吸が一体になっていることが伝わってくる。
デジタルな音に慣れた耳が癒されるようなロックアルバム。スティービー・ワンダー、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ、キャロル・キング、マービン・ゲイ、テンプテーションズ、シュープリームス、ヴァン・モリソン、ビートルズ...。それらのアーティストの名曲たち。特に新しいということをしているわけでなく、それでいて古さも感じない。メンバーの半数が還暦を超えるキャリアあっての演奏。まさに年期だ。
アルバムジャケットは猫だ。
なぜ猫なのだろう。
「ロックンロール」という言葉の生みの親と言われる50年代のアメリカのラジオDJ、アラン・フリードのニックネームが「ムーンドッグ」だったという謎かけのような洒落っ気も感じさせた。アルバムの冒頭には浜田省吾のDJ風な紹介がついている。
もうひとつ、見逃せないことがあった。
それは「What's going on」のミュージック映像である。
71年、マービン・ゲイが発表したソウルミュージックのスタンダードには、ベトナム戦争に対しての彼の気持ちが託されている。浜田省吾は、その曲の映像に国連の難民支援機関、UNHCR協会提供の写真を使っている。
時を超え、今、世界で起きていること。
そして音楽が伝えるもの。
心ある歌と演奏――。
カバーの意味というのはこういうことなのではないだろうか。
(タケ)