大きな展覧会になると、ネットに特設の紹介ページがつくられる。そこで詳しく展覧会の内容がPRされる。中でも今秋開催の「特別展『運慶』」の公式サイトは凝っている。「史上最大の運慶展」にふさわしく、力の入れ具合が半端ではない。
さいとう・たかをさんの劇画もあれば、「運慶学園」というサイト上の学校まで作られている。八百年以上前の運慶の魅力を、一気に現代に引き付けて、漫画世代やネット世代にも親しみ楽しんでもらおうという仕掛けだ。
ゴルゴ13に運慶のDNA?
「みどころ」などを紹介する公式サイトで、とくに目をひくのが「さいとう・たかをの『劇画で運慶』」だ。運慶の生涯を劇画でわかりやすく紹介している。クリックすると、さいとうさんが描くパワフルな運慶が目に飛び込んでくる。「鎌倉・動乱の時代に、不屈の魂で仏像を彫り続けた男がいた!」と、キャッチも劇画調だ。
驚くのは、『ゴルゴ13』などで知られるさいとう作品の登場人物と、運慶の仁王像の風貌がどことなく似ていることだ。そうか、運慶のDNAがさいとうさんの劇画にも受け継がれていたか、と何となく納得してしまう。
さいとうさんは、新しい表現スタイルを追求した運慶に共感。すでに1988年に『運慶』と言う作品を発表している。今回の展覧会をきっかけに再版されるという。
もう一つの注目は、「運慶学園」だ。入学試験を受けると学生証がもらえる。「体育」「歴史」「宗教」「美術」などの授業だけではない。「ダンス部」「手芸部」「イラスト部」「放送部」などの部活もある。
「体育」を教えるのは石井直方・東京大学大学院教授。身体運動科学の視点から、出品作品の「筋肉」を解説する。「大臀筋が発達している」「ねじる、ひねるという力が強い筋肉の付き方をしている」など専門的な分析が斬新だ。私たちがこのような力強い筋肉をつけるためのトレーニングのヒントも紹介されており、参考になる。
運慶作品の7割が集結
運慶(生年不明~1223)は卓越した造形力で知られ、日本美術史上で突出した存在だ。世界的に見ても、ミケランジェロ(1475~1564)以前の彫刻家の中では、固有名詞で名が残る数少ない一人だろう。
とはいえ作品の数は、それほど多くはない。現在「運慶作、もしくはほぼ運慶作」とされているものは31体とするのが一般的だという 。今回の「運慶展」では、その中から22体が集まる。
奈良・興福寺の「無著菩薩立像・世親菩薩立像」、奈良・円成寺蔵の「大日如来坐像」、静岡・願成就院蔵の「毘沙門天立像」など国宝が並ぶ。運慶にゆかりの深い興福寺の作品をはじめ、各地の運慶作の像が展示される。
このほか運慶の父・康慶、実子・湛慶、康弁ら親子3代の作品を揃え、運慶の作風の樹立から次代の継承までをたどる構成だ。
門外不出のお像が多く、なかなか大規模な展覧会ができなかった。今回は興福寺中金堂が再建されたのを記念したもので、「史上最大」と銘打たれている。 2017年9月26日から11月26日まで東京国立博物館(東京・上野)で開催される。