先週はシューベルトの室内楽をとりあげましたが、シューベルトは主に彼を尊敬する友人たちの集まりで作品を発表したということもあり、佳作が多く生み出されました。聴衆にとっても、演奏者にとっても、そして作曲家にとっても、室内楽という編成は、「気の置けない仲間内の集まり」というような雰囲気が大切で、また、そういったシチュエーションのために作曲されることも多いジャンルです。
今日取り上げる作品は、フランスの作曲家、カミーユ・サン=サーンスの「動物の謝肉祭」です。オーケストラで演奏されることも多いですが、もとは、変わった編成の室内楽で、ピアノ2台にヴァイオリンが2台の弦楽合奏、管楽器はフルート、ピッコロ、クラリネット、それにグラスハーモニカにシロフォンという編成です。
サン=サーンスが、知人の夜会で開かれるごくプライヴェートな音楽会のために書いた曲なので、おそらく、その参加メンバーを想定してこのような独特な編成になったものだと思われます。
題名は、亀、象、カンガルー
しかしそれ以上に変わっているのは、全14曲からなるこの組曲の内容です。正式な題名に「動物たちの謝肉祭・・・動物園的大幻想曲」という大げさな題名をつけてある割には、1曲で1分に満たない小曲もあり、全体を通して演奏しても25分ほどで終わります。
動物園の展示が謝肉祭のパレードに出張してきたような、「雄鶏と雌鶏」「亀」「象」「カンガルー」「水族館」・・・はいいとしても「ピアニスト」「化石」などという脱線気味の題名を持つ曲たちが並び、その曲の中には、数々のパロディ・・・他人や民謡から拝借したメロディーが、リスペクト、というよりカリカチュアライズされて織り込まれているのです。
例を上げると、第4曲目の「亀」と名付けられた曲は、その名の通り大変ゆっくりした曲なのですが、そこに使われている旋律は、フレンチ・カンカンで有名になった、ジャック・オッフェンバックの「地獄のオルフェ」・・日本では「天国と地獄」で知られて、カステラのCMにも使われた、あの人気曲のメロディーなのです。それをわざとゆっくり演奏する・・もちろん、原作者本人に許可などとっていない、毒のあるパロディなのです。
使われた作曲家は、ベルリオーズにメンデルスゾーンにロッシーニに上記オッフェンバック・・・さらにはサン=サーンス自身の「死の舞踏」も「化石」という曲に自ら使っています。
こういった内容からみても、これが「ごく内輪だけで楽しみのために演奏されるために企画されたちょっと一風変わった毒のある室内楽」であることがわかります。