日韓でカワウソの保存に乗り出す
ある早朝「獺祭」を目撃して歓喜

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日韓カワウソ合同研究会を結成

   一方、ユーラシアカワウソが生息する韓国でも、高度経済成長期に入った80年代は減少傾向にあった。かろうじて保護や保全の動きが進み、韓国カワウソ研究センターが設置された。

   晋陽(ジニャン)湖という広大なダム湖がカワウソの保護区になった。

   熊谷さんが初めて晋陽湖を訪れたとき、早朝に2頭のカワウソが「獺祭」(だっさい)をしている光景に遭遇した。捕まえた魚を食べずに、岸辺に魚を一列に並べていく行動で、いかにも嬉しくて祭りをしているように見えることから「獺祭」と呼ばれている。実際に目の前で見たときは信じられず、写真を撮ることさえ忘れたと苦笑する。

   日本はすでに絶滅の危機に瀕していても、もしも見つかったときのために韓国のノウハウを学びたい。熊谷さんは動物園の飼育関係者らに呼びかけて「カワウソツアー」を実施して

   交流も重ねていく。そこで思い立ったのが「日韓カワウソ合同研究会」の設立だった。

   そのためシンポジウムの開催を考案し、公益財団法人韓昌祐・哲文化財団に助成金を申請した。さらにNHKの動物番組『ダーウィンが来た!』が韓国のカワウソ復活の現状を放映し、大きな反響があった。折しも、東京動物園協会がユーラシアカワウソの飼育に力を入れようとしており、共催も決まる。

   「まさに"今、この時"とカワウソに背中を押されたんです」と、熊谷さんの声は弾む。

   2017年3月、東京で開かれたカワウソ国際シンポジウムには、200名近い人が来場した。多摩動物公園長の福田豊さんは、「動物園の役割のひとつに『種の保存』があります。数多くの野生動物が危機的な状況に晒(さら)されている今、優先的に取り組む課題です」と、保全活動に寄せる思いを述べた。

   韓国環境部の韓尚勲(ハン・サンフン)さんは、カワウソが韓国の河川や海岸で容易に見ることができるようになったけれど、他方で減少している現状を語った。

   また、韓国カワウソ研究センター所長の韓盛鏞(ハン・ソンヨン)さんは「ソウル中心部を流れる漢江(ハンガン)流域で1頭のカワウソがソウル市民によって撮影された」ことを伝えた。

   日韓カワウソシンポジウムが実現することで、「まずは絶滅させてしまったニホンカワウソに謝りたかった」という熊谷さん。その反省を現存する野生動物の保全に活かしていければ――と。そんなメッセージが、次の世代にも少しずつ受け継がれている。

   日韓カワウソ合同研究会のメンバーに、韓国へ留学した学生もいた。ユーラシアカワウソの繁殖に取り組む動物園も増えつつあり、若手の飼育者が育っている。さらには韓国から台湾、東南アジアへとカワウソがつなぐ人の輪も広がろうとしている。

(文・ノンフィクションライター 歌代幸子 写真・フォトグラファー 菊地健志)

公益財団法人韓昌祐・哲文化財団のプロフィール

1990年、日本と韓国の将来を見据え、日韓の友好関係を促進する目的で(株)マルハン代表取締役会長の韓昌祐(ハンチャンウ)氏が前身の(財)韓国文化研究振興財団を設立、理事長に就任した。その後、助成対象分野を広げるために2005年に(財)韓哲(ハンテツ)文化財団に名称を変更。2012年、内閣府から公益財団法人の認定をうけ、公益財団法人韓昌祐・哲(ハンチャンウ・テツ)文化財団に移行した。

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