■「聖なる予言」(ジェームズ・レッドフィールド著、角川文庫)
1992年6月、環境と開発に関する国連会合がブラジルで開催された。リオ・サミットは、アマゾンの熱帯雨林の破壊や砂漠化、地球温暖化を首脳レベルで議論した初めての会議であり、当時のアメリカ大統領、ジョージ・W・ブッシュ氏は、強いリーダーシップを発揮した。
本書は、1990年代初頭のアメリカにおいて、多くのエネルギーや資源に依存する生き方に未来はあるのか、科学的合理性やキリスト教的思考以外にこそ、人類の未来をかなえるヒントがあるのではないか、と考え始めたアメリカ人の物語である。
レッドフィールド氏が、本書を私費出版したところ、たちまち10万部以上を売り上げ、大手出版社が初版20万部で再版した。
西暦3000年に向けての新たなパラダイム
本書は、ペルーに2000年以上前に書かれた古文書を解明する旅を続けながら、私たちが学ぶ9の知恵を解き明かす――。フィクションの体裁をとる現代人への問題提起だ。
物語は1000年前、キリスト協会が正邪を決めていた11世紀からはじまる。疫病、災害、飢餓。幸福と災いは、自然現象ではなく神のご加護と悪魔の所業と考えられていた時代。次は、近代自然科学が神に代わった時代。科学的根拠がないものは迷信となり、現代に至る。
今世紀、アインシュタインの相対性理論と量子力学の発展に伴い、時間と空間についてのパラダイムが変わり、それまで科学的合理性の向こうにあると思われたものを、物理学者を筆頭に自然科学者自らが求め始め、ニューサイエンスを求める思想が台頭する。本書は、ニューサイエンスの延長にある西暦3000年に向けて、新たなパラダイムを示そうとしている。これは、当時のアメリカ人の未来への不安感を満たすものだったのだろう。
「ご縁」に感謝し生きるススメ
偶然をご縁と言い換えれば、日本人には違和感がないが、スピリチュアルと言ってしまうと違和感があるだろうか。
知恵の多くは経験から得るものであるが、その経験は偶然得られるものも多い。本書では、知恵を高めるためにも、偶然やご縁に感謝して生きる態度を第一に推奨している。いわばスピリチュアルな生き方のすすめ、である。
エネルギーに関する知恵も精神的なものである。相対性理論によれば、物質は一種の純粋エネルギーである。本書では、一歩進んで「物質は、人間の意志と期待に順応する」という。農作物に愛情を傾け、他人に好意を示すことは、よりおいしい食物、親密な人間関係につながると。そして、それに必要なエネルギーは、メンタルトレーニングによって、自然から限りなく得ることができると。
人間同士のかかわりについても語っている。恋愛したときの高揚感は、相手のエネルギーを奪っているからだという。こうした態度は相手を不安にさせ、喧嘩や離別の原因になる。母の理想は、子供に惜しみなくエネルギーを与えることであり、子供を型にはめようとして子どものエネルギーを失わせてはならないと。
日本では、古来から、慈悲、あるいは、情けは人の為ならず、として理解されてきた生き方ではないか。メンタルトレーニングを通じた人間関係の改善にかなりの紙幅を割いているのが、アメリカ社会が抱える諸問題の根深さを感じてしまう。
「人間と神の中間に位置する存在としての人間」
人間と地球環境の関係に関しては、数世紀にわたる展望が示されている。民主主義は、植民地や戦争という肉体的な闘争から、精神レベルの競争に進化し、国を越えて、意識を共有し、協力しやすくなった。仕事の多くは、他人との交流と情報交換が中心となり、モノとは違って他人に与えることがはるかに容易になった。核融合、超伝導、人工知能、自動運転などにより、ものの不足という問題が消えて地球上の自然を人類が大切に育て保護するようになると。こうした主張が、夢物語ではないと、いま、私たちは受け止められるだろうか。
ホモデウスという言葉をご存知だろうか。今年の3月に出版された世界的ベストセラーの書名でもある。まだ日本語版は出版されていないが、「人間と神の中間に位置する存在としての人間」である。近現代の西洋社会の思想を根本から見直そうという問題提起でもある。農業革命が一神教を、産業革命が科学的合理性を与えたように、ホモデウスは、地球を守り地球と共生する役割を果たそうとすると説いている。本書とホモデウスをあわせ読むことにより、日本に住んでいてはわからない、アメリカ社会の未来思想の一端にふれることができる。
(経済官庁 YK)